第70回 若狭幹線林道
投稿日:2011年3月19日
2010年 林道日本一周・西日本編
思い出の難所!? 世久見峠を越えて
小浜からは国道162号を行く。5キロほど走ると、「阿納尻三差路」の交差点。左折する道は内外海半島のエンゼルラインに通じている。直進する道は国道162号で、この交差点を右折し、若狭幹線林道に入っていく。
国道162号から2・2キロ地点でダートに突入!
道幅の広い整備された林道を走る。路面の状態が良すぎるので、スズキDR-Z400Sにはちょっとものたりない。舗装化が進み、ダート→舗装→ダート→舗装…の斑模様で4区間のダート、合計9・6キロを走ったところで行止まりになった。
その行止まり地点からわずかに戻ったところの分岐を右折し、国道162号の世久見(せくみ)峠に出た。
世久見峠から三方へ。ここで国道162号は国道27号に合流する。
その合流地点の手前にあるみかた温泉「きららの湯」(入浴料600円)に入る。大浴場と露天風呂の湯につかったあと、食堂で「ニシンそば」(700円)を食べた。
いやー、それにしてもなつかしい「みかた温泉」だ。
「300日3000湯」の「温泉めぐり日本一周」(2006年?2007年)での一番の難関はここだった。大雪に見舞われたのだ。
2007年2月2日、敦賀から国道27号で小浜に向かったのだが、越前から若狭に入った頃から雪がひどくなった。
そのときの状況を『300日3000湯めぐり日本一周・上巻』(昭文社2008年9月刊)より紹介しよう。
「これはまずい!」。
バサバサ降りつづく雪はヘルメットのシールドにへばりつき、全く前方が見えなくなってしまう。ぬぐっても、ぬぐいきれるような雪ではない。裸眼で走ると、目に突き刺さってくる雪の痛みは、我慢の限界を超える。
何度もスズキDJEBEL250XCを道端に停めた。
除雪車が出動しているが、除雪したそばから路面にはかなりの雪が積もってしまう。
国道27号は幹線国道なので、そんな激しい雪にもかかわらず、大型トラックが雪を蹴散らして疾走している。
なんとも危ない状況。
バックミラーを見ながら後続車がやってくると路肩に逃げ、車の流れが途切れたところで本線を走り出すという繰り返し…。こうしてかろうじてみかた温泉の日帰り湯「きららの湯」にたどり着いた。
「きららの湯」では大浴場と露天風呂の湯につかり生き返ったが、湯から上がると、まったく身動きがとれなくなってしまった。
国道27号をこれ以上走るのは、もう無理だ。
「雪の中を走る」のと、「雪が降っている中を走る」のでは、全然違う。
自分自身がやられるのはまだしも、自分が原因で事故になることだけは絶対に避けなくてはならない。
「果報は寝て待て」
ではないが、こういうときは寝るに限る。
休憩室で「5分寝」をしたおかげでひらめいた。
三方から小浜までは国道27号ではなく、海沿いの国道162号を行こうと思いついたのだ。路面の雪ははるかに多くなるだろうが、そのかわり交通量はぐっと減るはずだ。大雪との悪戦苦闘の連続になるだろうが、すくなくともバイクのペースで走れる。
つまり、ぼく自身は転倒して痛い目にあっても、ほかの車に迷惑をかけることはない。 そう決めると、気持ちがスーッと楽になった。
国道162号の雪との大格闘がはじまった。
雪が深くなると、足をつきながら走った。
大きな難所にぶち当たる。最初に越える世久見峠だ。峠を貫くトンネルの見える地点まではなんとか登れたが、あと50メートルほどの地点でスタック。リアのタイヤは空転するばかり。まったく前進できなくなった。
ジェベルを降りて押し上げようとするのだが、アイスバーンの上に雪が積もっているので、ツルツル滑って力が入らない。
「う?ん、ここまでか…」
と、一度は諦めた。
だが、そのあと、
「よし、もう一度、チャレンジしよう!」
という気になった。
ギアを1速か2速に入れ、渾身の力を込め、半クラッチを使いながらすこしづつ押し上げていく。氷点下の気温にもかかわらず、噴き出す汗でウエアはグショグショ。
ヒーヒーハーハー、肩で大きく息をする。
心臓が口から飛び出しそうになるほどの苦しさ。
そしてついに50メートルの坂を登りきり、トンネルに入ったのだ。
峠のトンネルを抜け出ると、今度は恐怖の下り。
ツーーーーーッと滑ってしまうので、路肩の雪の中に前輪を突っ込むような形でそろりそろりと下っていく。これでもう、後戻りはできなくなった。なにがなんでも国道162号で小浜まで行くしかないのだ。
ぼくは一発勝負の賭けに勝った。
その先の登り下りもきつい雪道だったが、小浜に近づくにつれて雪は小降りになり、路面の雪も少なくなっていった。
世久見峠の50メートルの登りがすべてだった。
ついに17時40分、小浜に到着。
小浜駅前でジェベルを停め、カンコーヒーで一人、乾杯。「きららの湯」から小浜駅前までは28キロ。そのわずか28キロに2時間以上もかかった。
「あれから3年か…」
みかた温泉「きららの湯」では、食後のコーヒーを飲みながら、過ぎ去った3年の歳月を振り返ってみるのだった。
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フォトアルバム
以下の5点は「300日3000湯」の写真(2007年2月2日の撮影)