アドレス日本一周 east[56]
投稿日:2013年9月15日
風の岬
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天気は変わり、道の駅「みついし」を出発する頃には、また雪がチラチラ降り出した。強烈な寒さに震えながら走り、国道235号で浦河に到着。浦河から国道336号→道道34号で襟裳岬に向かう。ここでは猛烈な風に吹かれながら走る。アドレスがフワッと浮いて吹き飛ばされそうになるほどの風の強さだった。
豊かな自然の残る日高山脈が太平洋に落ち込む地点、そこが襟裳岬だ。
北の狩勝峠から南の襟裳岬に到る120キロもの長大な日高山脈は、氷河地形のカールをいくつも残し、深い原生林に覆われ、北海道でも最も人里離れた世界になっている。
襟裳岬周辺の台地に樹木は見られない。敷つめられたかのような笹が地面を這い、笹原の中を道道34号の一筋のアスファルト道が岬へと延びている。
もともとこのあたりはカシワやミズナラの茂る樹林地帯だったということだが、長年の伐採で荒野に変り果て、強風に舞って砂が飛ぶようになったという。近年は盛んに「飛砂防止保安林」の植林がおこなわれている。
襟裳岬の駐車場に到着。風はさらに強くなり、ゴーゴーと唸りをあげて吹きまくっている。ここはまさに「風の岬」だ。
襟裳岬の「エリモ」は、岬を意味するアイヌ語の「エンルム」に由来するという。室蘭の絵柄岬と同じだ。襟裳岬も絵柄岬も岬の同義語を重ねたもので「岬岬」になる。地名にはこのような例がきわめて多い。
襟裳岬の駐車場から岬の突端まで遊歩道を歩いていく。そのわずかな間では、何度も強風に吹き飛ばされそうになった。
明治22年(1889年)に設置された襟裳灯台の前を通る。毎年、5月から8月にかけて海霧に悩まされる道東の海らしく、灯台には霧笛が備えつけられている。強風にも負けずに歩き、襟裳岬突端の展望台に立った。そこからさらに沖合いまで、岩礁が点々とつづいている。その風景は、まさに「日高山脈、ここに尽きる」というようなものだった。
北太平洋の荒波が岩礁にぶつかり、白い波が砕け散っている。この沖合いの岩礁地帯はゼニガタアザラシの生息地で、11月から4月にかけて見られるという。
猛烈な風から逃げるように、「風の館」(入館料500円)に飛び込んだ。そこはまるで天国。広く明るく暖かい展望室の望遠鏡で、岩礁地帯の荒海で泳ぐ何頭かのゼニガタアザラシを見た。それは感動の光景だ。そんなゼニガタアザラシのまわりを何羽もの海鳥たちが舞っていた。
「風の館」では襟裳岬の風のメカニズムを詳しく紹介しているが、それによると日高山脈にさえぎられた気流が襟裳岬に回りこんでくるため、一年中、強風が吹き荒れるという。風速15メートル以上の日が年間200日を超え、風速30メートル、40メートルの日も珍しくないという。襟裳岬は日本でも一番といっていい「風の岬」だ。