アドレス日本一周 east[93]
投稿日:2013年10月28日
スターターが動かない
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猿払温泉「憩いの湯」から上がり、外に出ると、吹雪はいっそう激しくなっている。アドレスに積もった雪を払い、エンジンをかけて出発しようとすると、スターターはウンともスンともいわない。氷点下の寒さと吹雪に電気系統がやられたのか。
「アドレス日本一周」での初めてのマシントラブルだ。
すぐさまスズキのMさんに携帯で電話する。
電話でのMさんの指示は的確だ。
「ホーンを鳴らしてみてください」
「鳴ります」
「ウインカーを点滅させてください」
「両方とも点滅します」
「バッテリーは大丈夫。カソリさん、アドレスにはキックがついているんですよ。キックでエンジンをかけてみてください」
Mさんのそのお言葉を聞いて、「あー、しまったー!」と思った。
アドレスの始動の良さは抜群で、いつもセル一発でエンジンがかかった。それもあってキックなどはすっかり忘れていた。というよりも眼中になかった。
さっそくキックすると、何とキック一発でエンジンがかかるではないか。
「Mさん、かかりましたよ、一発で!」
「それではカソリさん、一度、エンジンを切ってください」
「はい、切りました」
「今度はフロンブレーキをかけながらセルを回してみてください」
Mさんにいわれた通り、右側のフロントブレーキのレバーを握りながら、左手でスターターのボタンを押すとエンジンがかかるではないか。
「カソリさん、リアのブレーキランプを見てください。きっと切れてますよ」
とMさんにいわれ、すぐにエンジンをかけたままで左側のブレーキレバーを握ったが、ほんとうにその通りで、リアのブレーキランプはつかなかった。
それが原因でセルモーターがまわらなかったのだろうとMさんはいう。
「助かった!」
Mさんには「300日3000湯」の「九州一周」でも助けてもらったことがある。そのときの様子もぜひとも紹介しよう。
出水温泉「薩摩つる乃湯」の朝湯に入る。大浴場と露天風呂。露天風呂には打たせ湯もあり、豪快に流れ落ちている。ここは湯量豊富な温泉だ。地下タンクの貯湯量は300トンにもなるという。源泉の泉温は46.2度。PH9.2という強アルカリ性のつるつる湯。「つる乃湯」というのは出水のツルとつるつる湯のツルをかけているのだろうか。
朝湯から上がり、朝食を食べ、さー、出発。宿泊代を払って出ようとすると、宿の女将さんは「これ、お昼に食べなさい」といって弁当を手渡してくれるではないか…。昨夜の「おこわ」といい、今朝の「弁当」といい、もう胸がいっぱいになってしまう。
第1湯目は高尾野温泉の日帰り湯「高尾野温泉センターもみじ」の湯。大浴場は明るい広々とした浴室。露天風呂の湯につかり、白いチェアーに座るとうとうとしてしまう。だが、極楽気分もここまで…。
「高尾野温泉センターもみじ」の湯から上がると行動開始。スズキBandit1250Sのリアタイヤはすでに限界、というよりも限界をはるかに超えている。タイヤはすり減り、中のスチールが見えている。昭文社の桑原さんが調べてくれた出水市内の「オートショップ窪」へ。だがタイヤは取り寄せになり日数がかかってしまうとのこと。さあ、困った。店のオーナーはバンディットのタイヤを見て、「もうどこでバーストしてもおかしくない状態」だという。
どうしていいのかわからないまま、とりあえずは「温泉だ!」と、国道3号沿いにある舞鶴温泉の湯に入る。大浴場の内風呂のみ。熱めの湯と温めの湯。ほかに入浴客はいない。温めの湯だといくらでも長湯できる。「そうだ!」。温泉に入るといい考えが浮かぶ。湯につかりながら携帯でスズキのMさんに電話した。
「カソリさん、バンディットどうですか?」
「ほんとうにいいバイクですよ。メチャクチャ良く走ります。(発売間もないニューモデルなので)あちこちでみなさんの注目を集めてま〜す!」
Mさんとそんな挨拶をかわしたあと、
「ところでMさん、今、ちょっとした緊急事態なんですよ。バンディットのリアのタイヤをすぐに交換しなくてはならない状態でして…」
「今、どこですか?」
「鹿児島県の出水市です」
「カソリさん、すぐに聞いてみるので、10分ほど待ってください。折り返し、電話しますから」
携帯って、ほんとうに便利だ。
温泉の湯につかりながらこれだけのことができてしまう。
10分もかかららずにMさんからの電話。
「鹿児島までは走れますか?」
「なんとかやってみます」
舞鶴温泉の湯から上がると、Mさんが電話を入れてくれた鹿児島市内のバイクショップ「バイクフォーラム」を目指して国道3号を走る。いつバーストしてもいいように、できるだけ左側を走る。追い抜き、追い越しは一切、しない。
もしバーストして吹っ飛んでも、対向車線には絶対に飛び込まないよう、それだけには気をつかった。
川内、串木野と通り、南九州道に入る。
美山PAで昼食。「薩摩つる乃湯」の女将さんがつくってくれた弁当をあける。中にはおにぎりが3個と玉子焼き、漬物が入っていた。
無事、鹿児島中央駅前に到着したのは14時。鹿児島大学通りに面した「バイクフォーラム」に行くと、すぐさまタイヤ交換をしてくれた。ピカピカのタイヤにはきかえたバンディットで鹿児島中央駅前に立ったのは16時。そこから南九州道→国道3号で舞鶴温泉に戻ったのは17時20分だった。
猿払温泉「憩いの湯」を出発。猛吹雪をついて走り、宗谷岬へ。猿払村から稚内市に入ると吹雪はおさまり、宗谷岬に着くころには雪はやんだ。
気温は氷点下4度。朝方よりも1度、上がっている。
「民宿宗谷岬」に戻ると、女将さんは「ちょうと待っててね」といって、何と「モズクラーメン」をつくってくれた。いやー、この「モズクラーメン」のうまさといったらない。体の芯からあたたまった。胸の痛みも一瞬、忘れてしまうようだった。女将さんにラーメン代を払おうとすると、「いいのよ」といって受け取らなかった。
スズキのMさんといい、「民宿宗谷岬」の女将さんといい、宗谷岬に戻ってカソリ、胸がいっぱいになってしまうのだった。
(2007年5月18日撮影)