カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

アドレス日本一周 west[185]

投稿日:2013年6月12日

日本で一番うまいカニ

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 敦賀を出発。敦賀湾沿いの国道8号から河野海岸沿いの「しおかぜライン」へ。有料の河野海岸道路が無料化されたばかりなので、よけいに気持ちよく走れる。アドレスで走りながら潮の香をかぐ。敦賀湾の対岸には、敦賀半島北端の立石岬が見えている。
 国道305号に合流し、越前海岸を行く。
 越前ガニが解禁になったばかりなので、越前漁港はどこも活気にあふれている。漁港の周辺では「カニ」の看板を掲げた店を何軒も見かける。店先ではカニをゆでる湯気が立ち昇っている。

 ぼくは日本で一番うまいカニといったら、越前ガニだと思っている。
 前年の冬、越前ガニを食べたい一心で東名→名神→北陸道と高速道を突っ走り、越前ガニの本場の越前海岸にやってきた。高速道も一般道も路面に雪はなく、バイクでもきわめてスムーズに走れた。
 カニ店の店先では、大釜で越前ガニをゆでている。20分ほどで茹で上がった越前ガニの甲羅はきれいな赤味を帯びた色に変わる。湯上がりの女性の肌を思わせるような色だ。店内をのぞくと1匹2、3000円ぐらいから売られている。大きなものになると8000円から1万円ほど。越前ガニは「日本で一番うまいカニ」であるのと同時に「日本で一番高いカニ」でもある。大きな水槽では生きている越前ガニも見られた。
 その夜は越前岬に近い越前玉川温泉の国民宿舎「まるいち玉川荘」に泊まり、そこで越前ガニのフルコースを食べた。
 湯から上がると、さっそく大広間の膳につく。次々と用意される越前ガニ料理を目の前にしてカソリ、思わず歓喜の声を上げる。
 スゴい!
 スゴすぎる。
 大皿にはゆでた越前ガニの大物がド?ンと1匹、のっている。
 その足には越前ガニの新鮮さとうまさを保証する黄色いプラスチック製の標識票がついている。表には「越前ガニ」、裏には「越前港」と書かれてあった。
 刺し身の大皿にはヒラマサや甘エビ、イカ、ばい貝の刺し身とともに生のカニ足がのっている。
 別の大皿には焼きガニ。
 さらにカニすきの鍋にも越前ガニがまるごと1匹、入っている。
 そのほか焼きガレイや天ぷら、貝料理の大皿もついた。
 越前ガニはなんといっても塩ゆでしたものが一番いい。
 ゆでたカニの足をバリバリバリッとへし折り、甲羅をカパッとあけて食らいつく。カニ味噌をチュッチュ音をたてて吸った。
「う〜ん、たまらん!」
 もう狂気乱舞、無我夢中のカソリ。
 世の中、これほど夢中になれることが、そうそうあるものではない。
「人間は食うために生きている!」
 と、心底、実感するカソリだった。
 次に熱燗にした福井の地酒「すきむすめ」を飲みながらカニ刺しと焼きガニを食べ、グツグツ煮えてきたカニすきに箸をつけた。越前ガニのうまみがたっぷりとしみ出た汁のうまさといったらない。鍋には白菜や青菜、しらたき、シイタケが入っているが、とくに汁のよくしみ込んだ肉厚のシイタケがうまかった。
 鍋の具をあらかた食べたところで汁にご飯を入れ、最後はカニ雑炊で締めくくったが、これがまたとびきりのうまさ。一滴の汁も残さずに、きれいさっぱりと食べ尽くした。
 翌朝、越前漁港の中でも最大の小樟(ここのぎ)漁港に行った。漁船から水揚げされた越前ガニが、魚市場にズラリと並び、壮観な眺めを呈していた。カニはゴソゴソ動き、まだ生きていた。
 午前8時に一番競りが始まると、競り落とされたカニはすぐさま業者の車で港外に運び出されていく。保存のきかない越前ガニは鮮度が勝負なのだ。このあと二番競り、三番競りとつづき、競りは午前10時過ぎには終わった。越前海岸ではもう一か所、隣りの大樟(おこのぎ)漁港でも競りがおこなわれる。越前漁港というのは、これら漁港の総称なのである。
 熱気あふれる越前ガニの競りを見たあと、断崖が日本海に落ち込む越前岬の岩場に立った。冬の鉛色をした日本海。岬の周辺では、寒風に吹きさらされて野水仙の花が咲いていた。この越前岬の沖、丹後半島の経ヶ岬に向かって西へ2、30キロの海域が越前ガニの漁場。水深200メートルから400メートル、水温1度から3度の深い、冷たい海に生息している。
 越前漁港には50隻ほどのカニ漁の底曳網漁船があるとのことだが、それら漁船は早朝に出漁し、その日か、もしくは沖泊まりして翌朝には越前漁港に戻ってくる。漁場がきわめて近いので、鮮度満点の状態で越前ガニを水揚げすることができる。これがほかのカニとは違う、越前ガニの越前ガニたるゆえん。越前ガニ漁は11月の初旬に解禁になり、3月の下旬で終わる。
「越前ガニ」とはズワイガニの雄のことで、雌は越前海岸では「セイコ」もしくは「セイコガニ」と呼ばれている。雄と雌では全然、値段が違う。雄の方が大きく、雌は小さく、もちろん雄の方が値段が高い。雌の産卵は2月、3月で、1月下旬には雌は一足先に禁漁になる。
 ズワイガニの平均寿命は約15年。カニの中ではタラバガニに次いで長命だ。カニの季節になると北陸一の市場、金沢の近江町市場にもズワイガニがズラリと並ぶが、ここでは雄を「ズワイガニ」、雌を「コウバクガニ」といっている。ズワイガニは山陰になると、香住でもふれたことだが「松葉ガニ」と呼び名が変わり、雌は「セコガニ」とか場所によっては「ゼンマル」などと呼ばれている。

 そんな前年のカニ三昧を思い浮かべながらアドレスで越前海岸を走り抜けていく。
 越前玉川温泉の前を通り、越前岬のトンネルを抜け、そこでアドレスを止めた。
 残念ながら今回は越前ガニを食べることはなかった。

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波静かな敦賀湾
「しおかぜライン」を行く


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水揚げされたばかりの越前ガニ
越前ガニの水揚げで活気づく越前漁港


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越前岬のトンネル
越前岬突端の岩場


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