奥の細道紀行[58]
投稿日:2016年11月15日
酒田をもうひとまわり
酒田は「奥の細道」のきわめて重要なポイントだ。ここを過ぎると、あっというまにゴールの大垣まで行ってしまう。ということで、酒田というのは、何とも離れがたいところなのである。
酒田からそのまま日本海沿いに南下してしまうのではなく、「酒田→酒田」でこのエリアをもう少し、まわりたくなった。さー、カソリの「奥の細道」(酒田編)の始まりだ。
まずは酒田近郊の八幡から鳥海山の東側を越えていく奥山手代林道へ。山形県側が奥山林道、峠を越えた秋田県側が手代林道になる。
奥山林道の入口が升田の集落。ここには名瀑がある。集落の外れに御嶽神社がまつられているが、そのご神体の玉簾の滝は「飽海三名瀑」のひとつに数えられている。高さ63メートルの一直線に流れ落ちる滝は見ごたえがある。あたりには霊気が漂い、空気もひんやりとしている。
御嶽神社を参拝し、玉簾の滝を眺めたあと、奥山林道に入っていく。この林道は山形県側がしばしば崩落で通行止めになるが、今回は路面も整備されていて比較的、走りやすかった。山形・秋田県境の峠で折り返したが、山形県側のダート距離は14・7キロ。それを往復したので、29・4キロのダートを走ったことになる。
八幡に戻ると、八森温泉「ゆりんこ」(入浴料400円)の湯に入った。大浴場と露天風呂はともに赤茶けた湯で、温泉らしさを感じさせてくれる。
八幡からいったん酒田に戻ると、今度は最上川沿いの国道47号で新庄へ。その手前で右折し、国道458号に入っていく。この国道がうれしくなるような「ダート国道」なのだ。
まずは肘折温泉へ。ここまでは道も舗装路。肘折温泉の共同湯「いでゆ館」(入浴料350円)の湯に入ったあと、いよいよ「ダート国道」へ。
肘折温泉を過ぎると、国道458号は山中を縫って走る狭路になる。そして待望のダート区間に突入。十部一峠に向かって登っていくのだが、峠までの間には2・8キロ、0・9キロ、3・3キロの3区間のダート区間があった。合計すると7・0キロのダート距離。標高870メートルの十部一峠に到達したときは、ST250を停めて思わずガッツポーズ。こうして変らずにダート区間が残っているので、「やったね!」という気分。心底、うれしくなってしまったのだ。
ぼくが「峠越え」をはじめたのは1975年のことだが、その当時は信州の分杭峠を越える国道256号(現在は国道152号)や九州山地の尾股峠を越える国道265号、福島・山形県境の大峠を越える国道121号、北海道の三国峠を越える国道273号など、「ダート国道」はあたりまえにあった。それがあっというまに舗装化され、「ダート国道」は次々に消えていった。
十部一峠を越える国道458号のような本格派の「ダート国道」は、ぼくの知るところではほかにない。それだけに、国道458号はじつに貴重な存在だ。
それともうひとつ、十部一峠には忘れられない思い出がある。冬期閉鎖になる直前をねらって峠を越えたことがあるが、そのときは大雪で、死に物狂いで寒河江側から十部一峠まで登った。そこで引き返せばよかったものを吹雪をついて肘折温泉を目指して峠を下ったのだ。
途中、「あー、しまった」と、何度、引き返せばよかったかと思ったことか。
遭難寸前で肘折温泉まで下ったが、温泉街の灯が目に飛び込んできたときは、
「助かった!」
と、バイクに乗りながら叫んでしまった。
そんな十部一峠を越え、寒河江側に下っていったが、以前は寒河江側にもあったダート区間は全線が舗装化されていた。
十部一峠を越えて国道112号に出ると、一路、鶴岡へ。鶴岡から酒田に戻った。
酒田の国道7号沿いの「ルートイン」で泊り、「花々亭」で夕食の「うな丼」を食べた。「酒田→酒田」は十分に楽しめたので、「芭蕉さん、ありがとう!」と、ひと言、お礼をいって眠りについた。