カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

温泉めぐり日本一周[236日目]

投稿日:2019年10月28日

「カソリさん 祝 60才♪」

北海道編 12日目(2007年9月1日)

 青森港に到着したのは22時30分。フェリーターミナルの片隅で前日分(第235日目)の原稿を書き終え、送信が完了したのは日付けが変わる直前。2時40分発の便のチケットを買い、24時間営業の食堂で青森名物の「ホタテラーメン」を食べる。食べながらさりげなく2人の大型トラックの運転手たちの話を聞いている。これがここでのいつもの楽しみ。2人とも個人でやってるようだ。「新潟からの帰りの便はおいしい仕事だったなあ。まる儲けだよ」。「この前の名古屋は燃料代にもならなかった…」

 2時10分、乗船。スズキDR−Z400SMともども乗り込み、2等船室へ。場所を確保すると、自販機のカンビールで北海道に乾杯。つまみは「koshiさん」差し入れの「かもめちくわ」。これがカンビールにはことのほか合う。キューッと一気に飲み干す。2袋8本入っているので1本ではたりないので2本目。「かもめちくわ」を全部、食べ終わったところで自分一人のミニ宴会、終了だ。

「北海道よ、待ってろよ〜!!」。

 2時40分、東日本フェリーの「ばにあ」、青森港を出港。雨具を枕に、ウエアを着込んで横になる。時間が時間なだけに、もう、「瞬間寝」。青森までの雨と寒さの中を突っ走ってきた疲れもあって、ドロドロの底なし沼に落ちていくかのような深い眠りだった。この真夜中の便は当然、ひと晩の宿をも兼ねている。

 6時30分、函館港に到着。ここからは「函館→函館」の「北海道一周編」の開始。北海道を反時計回りで一周するのだ。

 昨日の天気とはうって変わって、抜けるような青空が広がっている。フェリーターミナルから函館の中心街に入り、JR函館駅前から立待岬の方向へ。

 第1湯目の谷地頭温泉に到着したのは6時50分。さっそく大浴場の湯に入る。赤茶けた湯の色。有味無臭の湯。高温湯と低温湯の湯船があるが、ともに熱い。高温湯は45度なので熱いのは当然だが、低温湯も43度あるのでかなり熱い。露天風呂はその中間の湯温で44度。湯から上がると、次は立待岬だ。群青色の津軽海峡。函館山が断崖となって海に落ちている。対岸の下北半島もよく見える。青き下北の山々!

 第2湯目は湯ノ川温泉。ここには何湯かの共同浴場があるが、そのうち「根崎湯」に入った。入浴客はぼく一人。ここの源泉は64度という高温湯。「根崎湯」を上がると、函館の市街地を離れていく。

 国道278号で恵山へ。

 第3湯目は戸井温泉「ふれあい遊湯館」にするつもりだったが、入浴は10時からなので、先に恵山温泉に行き、「恵山温泉旅館」の湯に入った。ということで、恵山温泉「恵山温泉旅館」の湯が第3湯目になった。ここでは「すぐに色が変わってしまうので」ということで、タオルを貸してくれた。浴室には「石っけんは効きません」の注意書。太いパイプから湯が勢いよく湯船に流れ込み、あふれて流れ出ている。湯船にどっぷりつかる。半透明の赤褐色の湯を口に含むと強烈な味がする。まるで渋柿をかじっているかのようで、口の中に渋味が残った。

 次の石田温泉は残念ながら機械の故障で入れなかった。

 第4湯目は御崎海浜温泉「浜の湯」。入浴料は寸志で、入口の料金箱には200円を入れた。ここは混浴の屋根付き露天風呂。湯はほぼ無色透明。ほかには入浴客もいないので、自分一人で湯につかった。

 御崎海浜温泉「浜の湯」を上がると、さきほどの戸井温泉「ふれあい遊湯館」に戻り、第5湯目に入った。大浴場の無色透明の熱湯と温湯につかった。

 国道278号の道の駅「なとわ・えさん」のレストランで朝食の「朝イカ定食」を食べ、第6湯目の水無海浜温泉へ。うっすらと噴煙を上げる恵山が太平洋に落ち込む恵山岬のすぐ近く、椴法華村側にある海浜の混浴露天風呂に入る。コンクリートで囲った湯船は全部で6つあり、目の前に広がる太平洋の大海原を見ながら湯につかる。湯につかりながら太平洋の水平線を眺めた。なんとも豪快な露天風呂だ。あまりにも海に近いので、海が荒れたり満潮になると、湯船は波をかぶってしまい入れない。この時も海側の露天風呂はすでに海中に沈んでいた。左手には白い灯台の立つ恵山岬が見える。ここには灯台資料館の「灯台ファミリー博物館」。初代恵山岬灯台の4分の1大の模型が展示されている。

 第7湯目は川汲温泉「川汲温泉ホテル」の湯。ここは川汲峠下の一軒宿の温泉。大浴場の2つの湯船に入った。

 第8湯目は大船上の湯温泉「南かやべ保養センター」の湯。大浴場と露天風呂。大浴場は無色透明の重曹泉、露天風呂は乳白色の硫黄泉で泉質が違う。

 第9湯目は大船下の湯温泉。河畔の一軒宿「下乃湯」に入る。若干のにごり湯で青味がかった湯の色をしている。有味無臭の湯。ここは道南でも一番といっていいほどの鄙びた系の温泉だ。

 第10湯目は鹿部温泉。共同浴場「亀の湯」に入る。ここの湯はきわめつけの熱さ。源泉は91.3度という超高温湯。その湯がそのまま湯船に流れ込んでいる。水をガンガン入れても、そう簡単には入れない。熱湯との大格闘の末、やっとチャッポンと入るのに成功。ほんのわずかなチャッポンだったが、それでも全身が腫れあがるほど真っ赤になった。これが不思議なのだが、湯から上がったときは最高の気持ち良さ。熱湯特有とでもいおうか、体全体はヒリヒリするのだが、何ともいえないシャッキリ感が肌に残る。

「亀の湯」を出ると、玄関の前にはクーラーボックスの上に座っている女性がいた。何しているのだろうと不思議に思ったが、何とぼくが出てくるのを待っている人だった。それが「カブタン」との出会い。「カブタン」いわく、「今日は命を張ってカソリさんの捕獲に来たんですよ」。ご主人と2人、旭川から四駆を飛ばしてやってきた。

 そのあと、すごいドラマが待っていた。

 鹿部温泉には100度近い熱湯が吹き上げる間歇泉があるが、そこの駐車場に2人の車が停まっていた。そこで「カブタン」が用意したバースデーケーキをいただいたのだ。「カソリさん、おめでとう!」といわれてちょっと照れるカソリ。北海道ではみなさんが知っているという「わかさいも本舗」のケーキで、上にのったチョコレートには「カソリさん 祝 60才 ♪」とある。60歳分のローソクの火をフーッと吹き消したあと、遠慮なくいただいた。ケーキも生クリームもイチゴもすべて美味。この日(9月1日)は、カソリの60歳の誕生日。ついに「還暦」を迎えたのだ。

 ぼくはこの日がすごくいやだった。自分が60の大台にのるなんて、信じられなかったし、信じたくなかった。ところがこうして「カブタン」夫妻に60の誕生日を祝ってもらったおかげで、「よーし、やったろうじゃないか」と、前向きな気持ちになれた。

 還暦といったら、元の暦に戻ること。ぼくはバイクでアフリカに飛び出していった20歳のときに戻ろう、あのときのあの気持ちでもう一度、日本を世界をまわろうという気になった。これもすべて「カブタン」のおかげだ。

「カブタン」夫妻に別れを告げ、大沼周辺の温泉をめぐる。

 第11湯目は東大沼温泉「留の湯」。大浴場の大風呂に入る。やわらかなしっとり系の湯。パンチの効いた鹿部温泉のあとに入ったので、湯のやわらかさが際立っていた。

 第12湯目は流山温泉「流山温泉」の湯。大浴場と露天風呂。露天風呂の湯につかりながら夕暮れの駒ヶ岳を見る。絶景湯だ。

 第13湯目はワールド温泉牧場の湯。残念ながらすでに日は暮れ、まわりの風景は見えなかったが、ここは丘陵地帯に広がる牧場の温泉。大浴場と露天風呂。温めの湯につかりながら感慨にひたる。ここが2500湯目なのだ。

「あと、500湯だ〜!」

 ついに3000湯が見えてきた。

 第14湯目は駒ヶ峯温泉。大規模な温泉施設「ちゃっぷ林館」の湯に入る。大浴場と大露天風呂の湯はともに無色透明。ここから国道5号で函館に戻った。

 最後は函館の温泉めぐり。

 第15湯目はせせらぎ温泉「せせらぎ温泉」の湯。大浴場と露天風呂の湯につかる。大分、湯疲れしてきているが、体にムチを打って湯につかる。温泉めぐりは難行苦行の連続だ。

 第16湯目は東前温泉「しんわの湯」。ここは大規模な温泉施設。大浴場と露天風呂の湯につかったあと打たせ湯に打たれ、寝湯でしばしウトウトした。

 今晩の宿は函館湾に面した七重浜温泉「スパビーチ・ホテル海王館」。到着は21時。第17湯目の「宿湯」にホッとした気分で入る。湯につかりながら暗い海を眺めた。それにしてもドラマチックな1日だった。これは「北海道一周」が終わってからわかることだが、この日の「1日17湯」は北海道では一番の記録。湯から上がるとレストランで夕食。まずは生ビールで乾杯し、還暦と2500湯達成を祝った。そのあと「握りずし」を食べるのだった。

本日のデータ 料金等は当時のものです
2時40分 青森港発 東日本フェリー
6時30分 函館港着
2488湯目 谷地頭温泉「谷地頭温泉」(390円)
立待岬
2489湯目 湯ノ川温泉「根崎湯」(390円)
2490湯目 恵山温泉「恵山温泉旅館」(300円)
石田温泉(入れず)
2491湯目 御崎海浜温泉「浜の湯」(200円)
2492湯目 戸井温泉「ふれあい遊湯館」(380円)
朝食 道の駅「なとわ・えさん」 朝イカ定食(1000円)
恵山岬
2493湯目 水無海浜温泉「露天風呂」(無料)
2494湯目 川汲温泉「川汲温泉ホテル」(380円)
2495湯目 大船上の湯温泉「南かやべ保養センター」(400円)
2496湯目 大船下の湯温泉「下乃湯」(200円)
2497湯目 鹿部温泉「亀の湯」(290円)
出会い カブタン夫妻
昼食 鹿部温泉 カブタン夫妻からのバースデーケーキ
2498湯目 東大沼温泉「留の湯」(390円)
2499湯目 流山温泉「流山温泉」「800円)
西大沼温泉「函館大沼プリンスホテル」(入浴のみ不可)
2500湯目 ワールド温泉牧場「ワールド温泉牧場」(500円)
2501湯目 駒ヶ峯温泉「ちゃっぷ林館」(400円)
2502湯目 せせらぎ温泉「せせらぎ温泉」(300円)
2503湯目 東前温泉「しんわの湯」(390円)
21時 七重浜温泉「ホテル海王館」(1泊朝食6500円)
2504湯目 七重浜温泉「ホテル海王館」
夕食 七重浜温泉「ホテル海王館」握りずし(1030円)
本日の走行距離数 250キロ
本日の温泉入浴数 17湯

東日本フェリーの「ばにあ」(右)、青森港を出港函館が見えてくる谷地頭温泉「谷地頭温泉」

東日本フェリーの「ばにあ」(右)、青森港を出港 函館が見えてくる 谷地頭温泉「谷地頭温泉」

立待岬からの眺め函館の町並みを眺める湯ノ川温泉「根崎湯」

立待岬からの眺め 函館の町並みを眺める 湯ノ川温泉「根崎湯」

「根崎湯」の湯恵山温泉「恵山温泉旅館」「恵山温泉旅館」の湯

「根崎湯」の湯 恵山温泉「恵山温泉旅館」 「恵山温泉旅館」の湯

御崎海浜温泉「浜の湯」の混浴露天風呂道の駅「なとわ・えさん」の「朝イカ定食」太平洋と津軽海峡を分ける恵山岬

御崎海浜温泉「浜の湯」の混浴露天風呂 道の駅「なとわ・えさん」の「朝イカ定食」 太平洋と津軽海峡を分ける恵山岬

水無海浜温泉の混浴露天風呂川汲温泉「川汲温泉ホテル」大船上の湯温泉「南かやべ保養センター」

水無海浜温泉の混浴露天風呂 川汲温泉「川汲温泉ホテル」 大船上の湯温泉「南かやべ保養センター」

大船下の湯温泉「下乃湯」鹿部温泉「亀の湯」「カブタン」夫妻がプレゼントしてくれた「バースデーケーキ」

大船下の湯温泉「下乃湯」 鹿部温泉「亀の湯」 「カブタン」夫妻がプレゼントしてくれた「バースデーケーキ」

東大沼温泉「留の湯」流山温泉から見る駒ヶ岳大沼を赤々と染めて夕日が落ちていく

東大沼温泉「留の湯」 流山温泉から見る駒ヶ岳 大沼を赤々と染めて夕日が落ちていく

ワールド温泉牧場「ワールド温泉牧場」の露天風呂へせせらぎ温泉「せせらぎ温泉」七重浜温泉「ホテル海王館」の「握りずし」

ワールド温泉牧場「ワールド温泉牧場」の露天風呂へ せせらぎ温泉「せせらぎ温泉」 七重浜温泉「ホテル海王館」の「握りずし」

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