カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

温泉めぐり日本一周[38日目]

投稿日:2017年8月8日

カソリの「記念碑的温泉」が消えた

甲信編 14日目(2006年12月14日)

 桟温泉「桟温泉旅館」の朝湯は気持ちよかった。展望風呂からは木曽川の流れを一望する。そのあとの朝食では湯豆腐、塩ジャケ、かまぼこ、塩辛、明太子などをおかずに、いつものように「三杯飯」を食べた。

 9時、桟温泉「桟温泉旅館」を出発。

 国道19号で木曽福島から鳥居峠下の藪原へ。そこから県道26号で境峠を目指す。峠の周辺にはうっすらと雪が積もっていたが、路面には雪はなく、凍結箇所もなかった。

 ところが中央分水嶺の境峠(1486m)を越えたとたん、雪がぐっと増え、路面もツルツルに凍りついている。本格的なアイスバーンとの闘い。下手にブレーキを使うと、その瞬間にツルッと滑って転倒し、そのままツーッと滑走してしまうので、両足を氷面につきなながら下っていく。スズキST250の車高は低く、べたっと両足を氷面につきながら走れるのですごく助かった。峠道を下るとダンプカーが多くなった。対向車のダンプカー、後続車のダンプカーには最大限の注意を払った。

 第1湯目は境峠下の渋沢温泉。「仙洛」、「マウンテンハウスコンチェルト」とまわったが入れず、3軒目の「ウディ・もっく」の湯に入れた。内風呂の湯につかった瞬間、思わず「助かった!」の声が出た。強烈な寒さとアイスバーンとの闘いで打ちのめされた体が一気に蘇る。

 第2湯目は奈川温泉。ここでは「野麦荘」の湯に入れた。赤茶けた湯の色。湯につかりながら奈川の流れを見下ろした。すごく体に効きそうな湯。温泉の効能を見ると、一番上に「ヒステリー、神経衰弱」、それにつづいて「創傷、火傷、慢性皮膚病」とあるが、ほんとうに効くのだろう。こうして温泉めぐりをしていると、温泉の効能のすごさには心底、実感できるものがある。つづいて行った新奈川温泉の「リフレイン奈川」は「本日、休館日」で入れなかった。

 奈川温泉からはウソのように楽に走れた。

 第3湯目は乗鞍高原温泉「湯けむり館」の湯。有料林道の交差点にある温泉施設。正面には雪の乗鞍岳(3026m)が見える。木の湯船、木の洗い場。浴室からも乗鞍岳が見える。露天風呂は石造りだ。

 第4湯目は白骨温泉。乗鞍岳の東側中腹の標高1400メートル地点の高所の温泉。梓川の支流、湯川沿いに湧く。「白骨」の名前通りの白濁湯で知られている。ここには共同湯の野天風呂があるが、残念ながら冬期間は閉鎖。そこで「煤香庵」の湯に入った。200年の歴史を誇る湯宿。白骨温泉には昔ながらの木造りの温泉旅館が並び、湯治場的な雰囲気を色濃く残している。

 白骨温泉から国道158号に出る。

 第5湯目はさわんど温泉。国道沿いに何軒かの温泉宿が建ち並んでいる。ここでは食事処「しもまき」の湯に入った。木の湯船、木の洗い場と、木をふんだんに使っている。湯から上がると昼食。「焼肉定食」を食べた。焼肉パワーで長野・岐阜県境の安房峠に向かっていく。その途中で坂巻温泉と中ノ湯温泉に寄ったが、ともに「本日休業」で入れなかった。

「峠返し」で安房峠の安房トンネル入口で折り返し、来た道を引き返す。

 第6湯目は竜島温泉の日帰り湯「せせらぎの湯」。内風呂と露天風呂。何しろ気温の低い信州なので、露天風呂に入る人はどこも少ない。その中にあってここは例外で、露天風呂はワサワサと混み合っていた。

 竜島温泉の先は松本電鉄の終点、新島々駅になる。駅前の妙鉱温泉に行くと、一軒宿の温泉旅館は老人ホームに変わっていた。なんということ。ここはぼくにとっては一生、忘れられない温泉なのだ。

 今から10何年も前のことになるが、東京から中央道を走り、奥飛騨温泉郷に向かった。諏訪湖SAでバイクを停め、バイクの整備をし、立ち上がろうとした瞬間、ギックリ腰に見舞われた。あまりの激痛に立ち上がることもできず、脂汗を流しながら1時間以上も草地にうずくまっていた。

 すこし気持ちが落ち着いたところで、「どうしようか…」と考えた。その結論は「このまま奥飛騨温泉郷まで走っていこう」というものだった。だが、その辛さといったらない。まったくブレーキを踏めなかった。ちょっとでもブレーキを踏むと、脳天をブチ抜くような激痛に襲われた。そこでブレーキは手を使うフロントのみにした。

 松本ICで高速を降りたが、料金所で料金を払うのが大変だった。なにしろ体を動かせないのでもたもたし、後続車に迷惑をかけてしまった。そこから国道158号を走り、新島々駅まで来たとき妙鉱温泉が目に入り、「温泉教」信者のカソリは温泉でギックリ腰を治そうとした。

 さっそく妙鉱温泉の湯につかり、30分以上、湯の中で腰をさすった。まさに自分の手を使っての「手当て」だ。温泉につかりながらの「手当て」はすごい効果を発揮し、湯から上がるころにはギックリ腰の激痛は半減していた。

 さらに国道158号沿いの坂巻温泉、中ノ湯温泉と入り、そのたびに湯の中で腰をさすった。すると安房峠を越えるころには諏訪湖SAでの激痛が四分の一くらいまでやわらいだ。その後、奥飛騨温泉郷から飛騨の温泉をめぐり、1週間後に東京に戻ったが、そのときには腰の痛みはほとんど消えていた。温泉だけでギックリ腰を治したのだ。ぼくにとって妙鉱温泉というのは、そういう温泉。カソリの「記念碑的温泉」が消えた…。

 国道158号で松本へ。その途中では第7湯目の安曇野みさと温泉「ファインビュー室山」の湯に入った。大浴場と露天風呂。露天風呂からは遠くに松本の町明かりを見ることができた。湯から上がると夕食。「山かけ定食」を食べたが、レストランからも松本の夜景が見えた。

 今晩の宿、松本市内の横田温泉「舶来荘」に着いたのは20時55分。さっそく第8湯目の宿湯に入るのだった。

本日のデータ 料金等は当時のものです
朝湯 桟温泉「桟温泉旅館」
朝食 桟温泉「桟温泉旅館」 湯豆腐、サラダ、カマボコ、塩ジャケ、明太子、煮豆、塩辛、漬物、ご飯、味噌汁
9時 桟温泉「桟温泉旅館」を出発
境峠(峠越え)
320湯目 渋沢温泉「ウッディ・もっく」(400円)
321湯目 奈川温泉「野麦荘」(400円)
新奈川温泉「リフレイン奈川」(定休日)
322湯目 乗鞍高原温泉「湯けむり館」(700円)
323湯目 白骨温泉「煤香庵」(700円)
324湯目 さわんど温泉「食事処しもまき」(500円)
昼食 さわんど温泉「食事処しもまき」 「焼肉定食」(1200円)
坂巻温泉(入れず)
中ノ湯温泉(入れず)
安房峠(峠返し)
325湯目 竜島温泉「せせらぎの湯」(500円)
妙鉱温泉(廃業湯)
326湯目 安曇野みさと温泉「ファインビュー室山」(500円)
夕食 安曇野みさと温泉「ファインビュー室山」 「山かけ丼定食」(1250円)
20時55分 横田温泉「舶来荘」(1泊朝食6000円)
327湯目 横田温泉「舶来荘」
本日の走行距離数 181キロ
本日の温泉入浴数 8湯

桟温泉「桟温泉旅館」の朝湯に入る「桟温泉旅館」の前を流れる木曽川「桟温泉旅館」の朝食

桟温泉「桟温泉旅館」の朝湯に入る 「桟温泉旅館」の前を流れる木曽川 「桟温泉旅館」の朝食

「桟温泉旅館」を出発県道26号から見る木曽川の合流点。右が木曽川、左は笹川県道26号で境峠に向かっていく

「桟温泉旅館」を出発 県道26号から見る木曽川の合流点。右が木曽川、左は笹川 県道26号で境峠に向かっていく

境峠に到達境峠の下りは恐怖のアイスバーン渋沢温泉「ウッディ・もっく」

境峠に到達 境峠の下りは恐怖のアイスバーン 渋沢温泉「ウッディ・もっく」

「ウッディ・もっく」の湯奈川温泉「富喜の湯旅館」は休業中奈川温泉「野麦荘」

「ウッディ・もっく」の湯 奈川温泉「富喜の湯旅館」は休業中 奈川温泉「野麦荘」

「野麦荘」の湯新奈川温泉「リフレイン奈川」には営業中の旗が立っているが定休日乗鞍高原温泉から見る乗鞍岳

「野麦荘」の湯 新奈川温泉「リフレイン奈川」には営業中の旗が立っているが定休日 乗鞍高原温泉から見る乗鞍岳

乗鞍高原温泉「湯けむり館」乗鞍高原温泉「湯けむり館」の湯白骨温泉への雪道。雪はシャーベット状

乗鞍高原温泉「湯けむり館」 乗鞍高原温泉「湯けむり館」の湯 白骨温泉への雪道。雪はシャーベット状

白骨温泉は雪景色白骨温泉の共同湯の野天風呂は冬期閉鎖中白骨温泉「煤香庵」

白骨温泉は雪景色 白骨温泉の共同湯の野天風呂は冬期閉鎖中 白骨温泉「煤香庵」

「煤香庵」の露天風呂さわんど温泉「食事処しもまき」「食事処しもまき」の湯

「煤香庵」の露天風呂 さわんど温泉「食事処しもまき」 「食事処しもまき」の湯

「食事処しもまき」の「焼肉定食」坂巻温泉は休業あちこちで蒸気が噴き出す中ノ湯温泉

「食事処しもまき」の「焼肉定食」 坂巻温泉は休業 あちこちで蒸気が噴き出す中ノ湯温泉

安房峠の安房トンネル安房峠の旧道は冬期閉鎖中竜島温泉「せせらぎの湯」

安房峠の安房トンネル 安房峠の旧道は冬期閉鎖中 竜島温泉「せせらぎの湯」

妙鉱温泉は老人福祉施設になっていた安曇野みさと温泉「ファインビュー室山」の「山かけ丼定食」

妙鉱温泉は老人福祉施設になっていた 安曇野みさと温泉「ファインビュー室山」の「山かけ丼定食」  

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