カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

留萌のニシン街道

投稿日:2010年11月7日

稚内港から小平へ

 稚内港を出発。
 北海道遺産の稚内港北防波堤ドームをあとにし、野寒布岬へ。岬の突端に立つ赤白2色の稚内灯台は、北海道一のノッポ灯台だ。恵山泊漁港に面した岬公園からは利尻島の利尻富士がよく見えた。

稚内港を出発
野寒布岬


野寒布岬の灯台


 野寒布岬からは日本海を南下。日本最北の温泉、稚内温泉「童夢」の湯に入り、湯から上がるとレストランで昼食。ここでは「たこ天丼」を食べた。
 道道254号→道道106号で天塩へ。天塩川を渡り、天塩川の河口まで行く。天塩川も北海道遺産になっている。

天塩川の河口


 天塩からは国道232号でさらに日本海を南下。まだ10月だったが、スズキDR-Z400Sで切る風はもうすでに冬のような冷たさ。初山別温泉「岬の湯」に入り、冷え切った体をあたため、一時、天国の気分を味わった。露天風呂からは北へと延びる日本海の海岸線を一望した。
 羽幌に到着したところで、羽幌温泉「サンセットプラザはぼろ」に泊まる。湯から上がるとまずは生ビールをキューッと飲み干し、レストランで夕食。「海鮮丼セット」を食べた。 
 翌朝は「サンセットプラザはぼろ」のバイキングの朝食をしっかり食べ、国道232号で留萌に向かっていく。苫前を過ぎ、小平へ。

稚内温泉

稚内温泉「童夢」
「童夢」の「たこ天丼」


初山別温泉

初山別温泉「岬の湯」
「岬の湯」の露天風呂から見る日本海の海岸線


羽幌温泉

羽幌温泉「サンセットはぼろ」の湯


「サンセットはぼろ」の「海鮮丼セット」
「サンセットはぼろ」の朝食


道内最大規模の「旧花田家番屋」

小平の「旧花田家番屋」


 小平町の国道沿いにある北海道遺産の「旧花田家番屋」を見学。とてつもない大きさで、ここは現存する鰊番屋としては道内最大の規模だという。
 花田家は北海道でも屈指の鰊漁家で、最盛期には18ヵ統のニシンの定置網を持っていたという。この鰊番屋では5ヵ統の定置網の漁夫のほかに、船大工とか鍛冶職人、屋根職人など200人もの人たちが生活したという。
 明治中期に建てられた「花田家鰊番屋」は現在、資料館になっている。

「旧花田家番屋」の内部


「旧花田家番屋」に展示されている民具


「木割りは大きく豪壮であり、空間は雄大。玄関から奥に土間を通し、その北側に親方の住居部分を、南側には漁夫の生活部分をもうけ、漁夫の寝台を中二階に備えて三段とし、その機能と合理性を求め、俗に番屋と呼ぶ鰊漁家特有の平面構成である」
 と、鰊番屋を説明している。
 ちなみに面積は1階部分が906平方メートル、2階部分が105平方メートルで、合計すると906平方メートルになる。
 この小平の「旧花田家鰊番屋」につづく現存する鰊番屋というと、寿都の佐藤家番屋が741平方メートル、小樽の鰊御殿が638平方メートル。小平の鰊番屋が群を抜いて大きいのがよくわかる。
 展示されている明治から大正にかけての、ニシン漁最盛期の古ぼけた写真がすごい迫力だ。春先のニシン漁の季節になると、小平の海は群れるニシンで盛上がり、海の色は乳色に変ったほどだという。それらの写真は「千石場所」といわれた小平の浜の、はるか遠くに過ぎ去ったにぎわいを今の時代によみがえらせてくれる。
 当時は漁獲されたニシンの大半は、肥料用として魚粕にされた。写真を見ると、番屋の前は広々とした干し場になっていた。
 この地における年代別のニシンの漁獲量を見ると、明治中期から減りはじめ、獲れる年と獲れない年の差が大きくなり、昭和10年代になると激減する。一時、昭和19年前後に盛り返すが、昭和29年を最後にほとんど獲れなくなり、ニシンは幻の魚になってしまった。
 小平に来る前、羽幌では郷土資料館を見学した。かつての羽幌を支えたニシン漁と羽幌炭鉱の資料が興味深かったが、ここでのニシン漁の最盛期は明治30年代の後半。その後、ニシン漁は盛衰を繰り返し、昭和36年以降は小平と同じように、ニシンはまったくその姿を消してしまったという。
 小平の「旧花田家ニシン番屋」の展示で興味深かったのは、風の呼び名だ。
 さすが海の天候、風向きに敏感な漁民だけあって、この地の風の呼び名は細かく分けられていた。北風がアイ、北北東がアイシモ、北東がシモ、東北東がシモヤマセ、東風がヤマセ、東南東がタカヤマセ、南東がクダリヤマセ、南風がミナミ、南南西がクダリヒカタ、南西がヒカタ、西南西がニシヒカタ、西風がニシ、西北西がニシタマ、北西がタマ、北北西がアイタマになる。
 小平の「旧花田家鰊番屋」はじつに興味深いものだった。
 ここを見学することによって、北海道の日本海側に空前の繁栄をもたらしたニシン漁というものが、一体、どういうものだったのかがよくわかった。
 見学を終えると隣接するレストランで昼食。「焼ニシン定食」を食べた。焼ニシンにはたっぷりと脂がのっていた。定食には三平汁がついたが、これにもニシンが入っている。焼ニシンとはまた違った味わいで美味だった。

旧花田家番屋の「焼ニシン定食」の焼きニシン
「焼ニシン定食」のニシンの三平汁


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