カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

第72回 中部編突入

投稿日:2011年3月21日

2010年 林道日本一周・西日本編

近世の歴史をも秘めた木ノ芽峠

 敦賀では国道27号沿いの「日本海さかな街」で「海鮮丼」を食べた。
「竹乃屋」の「海鮮ちらし」(1580円)で、タイ、マグロ、ハマチ、ヒラメ、サバ、アジ、サーモン、イクラ、タコ、イカ、ウナギと、何と11種類もの具がのっている。さすが敦賀だ。
「海鮮丼」に大満足し、国道27号→国道8号経由で木ノ芽峠を越える国道476号に入っていく。「林道日本一周・中部編」の開始だ。
 目の前には福井県を嶺南と嶺北に二分する大山塊がたちふさがっている。この大山塊は昔からの交通の難所で、木ノ芽峠を貫く木ノ芽峠トンネルが開通したのは2002年のこと。トンネルの開通までは、国道476号は分断国道になっていた。
 だが、北陸道の木ノ芽峠の歴史は古い。寛永11年(1634年)には福井藩が木ノ芽関を設置したが、そのはるか以前、平安時代には峠道が開削されたという。
 江戸末期の元治元年(1864年)には、「尊皇攘夷」を唱える武田耕雲斎を統帥とする水戸の天狗党が京都を目指し、この峠を越えた。しかし京都にいた水戸藩主の一橋慶喜(後の第15代将軍)は天狗党の願いをしりぞけ、自らが天狗党の追討総督となって迎え討った。天狗党は木ノ芽峠を越えた北陸道の新保宿で降伏。その後、全員が敦賀の来迎寺で処刑され、武田耕雲斎を含む352人の首がはねられた。木ノ芽峠はそんな近世の歴史をも秘めた峠だ。
 葉原(榛原)、新保と旧北陸道の宿場を通り、全長1783メートルの木ノ芽峠トンネルをスズキDR-Z400Sで走り抜けていく。トンネルを抜け出たところで栃ノ木峠を越える国道365号に合流。さらに下っていくと板取の集落に着くが、ここに木ノ芽関は置かれていた。木ノ芽峠を下りきったところが今庄(南越前町)だ。
 今庄は昔も今も交通の要衝の地。福井県を二分する大山塊を越える峠道が、すべてここに大集合しているからだ。
 北陸道の木ノ芽峠(国道476号)を越えれば敦賀に出られるし、北国街道の栃ノ木峠(国道365号)を越えれば滋賀県・湖北地方の木之本へ、山中越(国道305号)を越えれば越前海岸に出られる(ただし国道305号は分断国道で、現在はその南の国道8号を経由していくことになる)。
 2005年1月、今庄町とその北の南条町、越前海岸の河野村の2町1村が合併して南越前町が誕生した。日本有数の豪雪地帯の今庄と、冬でも水仙の咲き乱れる越前海岸の河野村ではまったく共通点がないかのように見えるが、昔からの峠越えのルートでしっかりとつながっていたのだ。
 今庄からは国道365号を北上していく。
 北陸道の今庄ICを過ぎたところでは、信じられないことが起きた。先行する乗用車が何もないところで急ブレーキをかけた。それもタイヤから白煙が立ち上るほどの急ブレーキのかけかただ。あやうく車に激突するところだったが、かろうじてハンドルでかわし、対向車線に飛び出した。幸い対向車はなく、事なきをえたが、その車を追い越したところで警察官が「止まれ」の赤旗を振っている。何ということ…。国道365号のその区間は追い越し禁止になっていた。
 そこでは「一斉」の速度違反の取締りをしていた。先行車は速度測定のレーダーに気がつき、急ブレーキをかけたのだ。
「はい、こっちに来て」
 と、DRを切符切りの机に誘導する警官にぼくは食ってかかった。
「おまわりさんも見てたでしょ、あの車の急ブレーキのかけかたを。急ブレーキの音も聞いたでしょ!」
 しかし、警官はそれには無言だ。
「規則は規則」
 の一点張りで、追い越し違反の切符を切られた。
 もう頭に来たので、そこを出るときは思いっきりアクセルを開き、エンジン全開で飛び出してやった。
 もしパトカーが追跡してきたら、
「振り切ってやる!」
 ぐらいの勢いだ。
 メッチャクチャ頭に血の昇ったカソリだが、さすがといおうか、目指すダートの入口はしっかりと確認する。
 南条で国道365号を右折し、県道203号に入っていく。
 山中に入り、越前の山並みを眺めているうちに、気持ちも落ち着いてくる。すると不思議なもので、気持ちが切り替わり、あの急ブレーキをかけた先行車にお礼をいいたくなった。もしあの車がいなかったら、おそらくスピードオーバーで捕まっていたはずだ。
 さんざん悪たれをついてしまっが、「追い越し違反は重大事故につながるんですよ」と心配してくれた若いおまわりさん、ごめんなさい。ほんとうにその通りですよね。
 山中を縫っていく県道203号は、岩谷山を目の前にする峠を越えたところでダートに突入。国道365号から8・3キロの地点だ。
 だが…、県道203号のダート区間はあまりにも短かった。わずか1・2キロでしかなかった。これが「中部編」の第1本目のダート。県道201号にぶつかると、武生(越前市)の近くで国道8号に出た。
 国道8号のナイトラン。鯖江、福井、坂井と通り、牛ノ谷峠を越えて福井県から石川県に入る。加賀市、小松、白山と通り、22時、金沢駅前に到着。駅近くの食堂で「カレーライス」を食べ、金沢駅東口の「東横イン」に泊まった。

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フォトアルバム

高台から見渡す敦賀の町並み
「日本海さかな街」の「海鮮丼」


木ノ芽峠のトンネル
木ノ芽峠の今庄方向の峠道


県道203号を行く
県道203号の展望ポイント


県道203号のダートに突入!
転倒したら谷底に真っ逆さま…




金沢駅前に到着

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