カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

第152回 国道152号

投稿日:2011年11月17日

2010年 林道日本一周 関東・東北編

峠でぷつりと切れた分断国道へ大人のバイク旅

 那須から戻った翌日、8月15日は4時に伊勢原の自宅を出発。
 相模湖ICで中央道に入り、ビッグボーイを走らせ、6時30分、諏訪南ICに到着。そこでカメラマンの「ヒラシー」こと平島格さんと落ち合った。ヒラシーはホンダのXR230に乗ってきた。
『大人のバイク旅』(八重洲出版)の取材行開始。「分断国道」で知られる国道152号の峠越えをするのだ。
 いやー、気持ちが高揚する。これから越えていく峠に想いを馳せると、ゾクゾクッとしてくる。武者震いというヤツか。
 諏訪南ICから国道20号で茅野へ。目の前には日本列島を二分する大地溝帯、フォッサマグナ西側の断層線、静岡?糸魚川構造線の壁がそそりたっている。その壁を越えていくのが第1番目の杖突峠だ。
 我々はまず信濃の一の宮、諏訪大社上社の前宮を参拝する。諏訪大社は上社の前宮と本宮、下社の春宮と秋宮の4宮から成っているが、この前宮が一番歴史が古い。本殿の正面が杖突峠で、その背後にそびえる守屋山(1650m)がご神体になっている。諏訪信仰というのは、もともとは日本古来の自然崇拝なのだ。大地溝帯の壁はまるで諏訪大社を護っているかのように見える。まるで要塞といった印象だ。
 諏訪大社の上社前宮に旅の安全を祈願し、いよいよ国道152号を走り出す。
 杖突峠への登りは急勾配、急カーブの連続。峠の頂上近くの「峠の茶屋」では大展望を楽しみながら「峠十割そば」(1000円)を食べた。八ヶ岳から蓼科山、霧ヶ峰へとつづく山並みの眺めはすごい。
 ところで杖突峠の「杖」とは御柱祭りで知られる諏訪大社の「柱」と同じで、神の杖のことなのだ。神が降臨して初めて杖を突く場所、それが杖突峠なのだという。
 杖突峠を下った高遠からさらに国道152号を行く。この道は信州人にとっては、遠州の秋葉山参詣の街道なので、「秋葉街道」と呼ばれている。道の駅「南アルプスむら長谷」では人気のパン店で焼きたてのパンを食べた。
 2番目の峠、「ゼロ磁場」で人気沸騰の分杭峠へ。峠にビッグボーイを停め、ゼロ磁場までの道の前浦林道を歩いた。ゼロ磁場地点の沢には信じられないほどの人が押し寄せていた。そのためダート7・5キロの前浦林道は今は通行止だ。何ということ…。

中央構造線が走る断層の里へ

 分杭峠を越え、大鹿村の鹿塩温泉へ。その途中では中央構造線の「北川露頭」を見る。西日本を内帯と外帯に二分する日本最大の断層線、それが中央構造線。北川露頭では内帯と外帯の地層の色の違いがはっきりいと見られる。
 鹿塩温泉では「山塩館」(入浴料600円)の湯に入った。じつに塩分の濃い湯だ。塩分濃度は海水とほとんど変らない。この湯で昔は塩をつくっていたという話を聞いたことがある。
 ところが「山塩館」では、それを再現し、何と山塩をつくっているではないか。宿のご主人に山塩づくりを見せてもらったが、もうビックリ。荒い結晶の塩をザルにすくい上げるときの「サクサクッ!」という音がいつまでも耳に残った。日本でも一番山深い山村の大鹿村で塩をつくっているとは…。塩づくり用の井戸からくみ上げる水は海水よりも濃いという。
「峠越え」はいつものことだが、このような新たな発見の連続で心底、感動してしまう
 大鹿村では「中央構造線博物館」を見学。敷地内を走る中央構造線を目で見ることができる。杖突峠も分杭峠も、これから越える地蔵峠も青崩峠も、すべてその線上にある。
 分杭峠のゼロ磁場は中央構造線とおおいに関係がありそうだし、分杭峠下の「北川露頭」では中央構造線が地表に露出している。「山塩の里」は「断層の里」でもあるのだ。
 中央構造線は三河湾→紀伊半島→四国→九州と西日本を横断し、八代海に抜けている。この大断層線にそって青石が採れるが、その中でも「阿波の青石」は有名。青崩峠も青石に由来する峠名だが、崩れやすい地質とあいまって、まさに中央構造線を象徴している。
 名残惜しい大鹿村を出発し、3番目の地蔵峠へ。狭い曲がりくねった峠道がつづく。交通量はきわめて少ない。ヘアピンカーブを次々にクリアーし、峠の頂上に到達。そこには峠名どおり地蔵がまつられている。
 分杭峠から地蔵峠までが大鹿村になる。ここはまさに「峠の村」といっていいようなところで、鹿塩温泉のある鹿塩から塩川沿いに登っていくと、日本最高所の峠、南アルプスの三伏峠(2607m)に到達する。いつの日か、きっと越えようと思っている峠だ。
 ところで国道152号は地蔵峠でプッツンと途切れてしまう。その先の道は蛇洞林道(舗装林道)になる。ひとまず国道152号と分れ、蛇洞林道を行く。途中で分岐する遠山林道(舗装林道)に入り、南アルプスの大展望台で知られるしらびそ峠に立った。
 だが、残念…。あたり一面、濃い霧。目の前に連なっているはずの南アルプスの高峰群は、まったく見えなかった。
 しらびそ峠からは御池山林道(舗装林道)で「天空の里」で知られる下栗の集落に下った。下栗を目にしたときの驚きといったらない。
「おー、日本にこういう所があるのか!」
 といった驚きだ。
 南アルプスの山々が折り重なって連なり、その中を流れる川は目のくらむほど深い谷をつくりだしている。そんな急斜面に下栗の集落はある。道は折れ曲がり、道沿いの狭い畑は立っているのがやっとなほどの急傾斜。そんな下栗の山畑ではアワやキビ、モロコシの雑穀類が栽培されていた。日本からほとんど消えてしまった雑穀類だが、下栗ではそれをしっかりとつくりつづけている。
 バイクを停めて聞いてみると、アワは糯種のモチアワと粳種のメシアワをつくっているという。キビはコキビと呼んでいる。もじゃもじゃとした赤い穂をつけたモロコシはタカキビと呼んでいる。かつてはヒエもシコクビエもつくっていたという。「天空の里」はじつに興味をそそられる「雑穀の里」でもあった。
 その夜は民宿「ひなた」で泊ったが、山里の味覚たっぷりの夕食を食べ終ると、ヒラシーと信州の地酒を飲みながら、おおいに語りあった。ここまで越えてきた峠を肴にしてのうまい酒。ヒラシーは地蔵峠に向かっていく国道152号の分岐にはとくに驚いたようで、
「ええっ、ほんとうにこっちが国道?」
 と、それは津軽半島・龍飛崎の階段国道以上の驚きだったという。

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今回のエリア:昭文社ツーリングマップル関東甲信越 44→35→22→15

諏訪→高遠→大鹿村→下栗

諏訪大社上社の前宮を参拝
杖突峠の「峠の茶屋」


道の駅「南アルプスむら長谷」のパン店
中央構造線の「北川露頭」


鹿塩温泉「山塩館」の湯
霧のしらびそ峠


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