アドレス日本一周 west[22]
投稿日:2012年12月12日
荒波を切り分ける
志摩の玄関口、鳥羽港に上陸すると、海沿いの道を南下。「カキ食べ放題」の看板が目に入る。思わずアドレスのブレーキをかけかかったが、ここではぐっとこらえた。鳥羽の海はカキの養殖が盛んだ。
海辺の温泉、本浦温泉を過ぎたところでパールロードに入っていく。快走ルートを走り抜け、志摩市の中心、鵜方へ。ここでは横山の展望台まで足を延ばし、真珠養殖の英虞湾を見下ろした。
鵜方に戻ると海沿いの道を走り大王崎へ。
その途中ではなつかしの志島を通る。ここは海女漁の集落。志摩といえば海女漁の本場だが、何年か前の夏、ここの海女さんに漁に連れていってもらったことがある。
船に乗って沖に出ると海女さんは耳に栓をし、水中眼鏡をかけ、チューブの浮き輪に網をつけた「タンポ」を海に投げ入れ、鉄製のカギを持って海に飛び込んだ。
アワビやサザエをつかんで浮かび上がってくると、腰に巻いた綱と結んだタンポにそれを入れ、「アーフッ」と大きな声を出したり、「ヒューッ」と口笛を吹くようにして息を整え、また海に潜っていく。大変な作業だ。重労働といっていい。
1時間半ほどの漁を終えると、海女さんは船に上がった。タンポに入ったアワビやサザエはズシリと重い。それを編袋に移した。
浜に戻ると、海女さんは海女小屋で火を焚いた。
「食べなさい」
といって、獲れたのアワビやサザエを火で焼いてくれた。トコブシも焼いてくれた。40センチほどの大きなホラガイも焼いてくれた。
だが焚き火で焼いたアワビやサザエ以上に美味だったのは、生のアワビである。
海の潮がちょうどいい味つけになっているので、調味料のたぐいは一切、いらない。まだ生きているアワビをそのまま食べるのだが、信じられないほどの柔らかさで、微妙な歯ごたえがあった。
獲れたてのアワビは間違いなく志摩でも最高のご馳走なのに、海女さんは「アワビだけでは申し訳ないねぇ」といって家から持ってきた弁当を分けてくれた。さらに「兄さん、何か、ご馳走してあげましょうね」といいながら、野菜を刻み、卵を落としたインスタントラーメンをつくってくれたのだ。
そんなシーンが目に浮かんでくる。涙が出そうになるほどなつかしい。
なつかしの志島を走り抜け大王崎に到着。波切漁港の片すみにアドレスを停めると岬を歩いた。
大王崎は遠州灘と熊野灘を分けて突き出た岬。岬周辺の地名は波切で、何てうまい地名のつけ方なのだろうと感心してしまう。遠州灘と熊野灘はともに、昔から船乗りに恐れられた難所。その2つの海の荒波を切り分ける所が波切なのだ。
江戸時代の波切港は江戸と上方間の風待港として、また海が荒れたときの避難港としてにぎわったという。この港には米や酒樽、塩、材木、ミカンなどを積んだ船が頻繁に出入りした。
大王崎は「伊勢の神前、国崎の鎧、波切大王なけりゃよい」
と、歌にまで歌われた。ちなみに神前(こうざき)とは二見ヶ浦近くの神前岬、鎧とは国崎(くさき)の鎧崎のことで、波切の大王崎と合わせた3岬は、このあたりの海域の三大難所になっている。
土産物屋がずらりと並ぶ小道を歩き、岬の灯台に登る。岬突端の岩礁を見下ろし、その向こうに広がる太平洋の大海原を眺めた。そのあと灯台前の店でホカホカの「焼きウニ」(400円)を食べた。ゆで卵の黄身風の味わいだ。