カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

温泉めぐり日本一周[10日目]

投稿日:2017年6月26日

三国温泉郷から水上へ

関東編 10日目(2006年11月10日)

 大塚温泉「金井旅館」で迎えた朝はショッキングなものになった。いつものように4時前には起きて「第9日目」の原稿を書き、7時前にはほとんど書き終えた。「あともう少しだな」とほっとしたとき、何かを触ってしまったのだろう、パソコンの画面が真っ白になってしまった。ぼくの頭の中も真っ白。7時半には朝湯に入り、8時に朝食を食べ、8時半には出発するつもりでいた。その予定はできるだけ崩したくなかったので、「よーし、やってやる!」と、もう一度、新たな原稿を書き始めた。なにがなんでも、7時30分には「送ってやる!」という気分になったのだ。こういうときのぼくの頭の切り替えは速い。「火事場のバカ力」とはよくいったもので、15分遅れの7時45分には原稿を書き終え、送信を完了させた。人間、やればできるのだ。そのあとで入った朝湯はもう最高!

 朝食を食べ、8時45分、大塚温泉を出発。宿のおばあちゃんは「こんな温い湯でびっくりしたでしょ。でもね、そのあとポカポカするんですよ。またいらっしゃいね」といってぼくを送り出してくれた。大塚温泉の温湯で長湯はすごく気に入った。

 国道145号で中山まで行くと、県道36号で赤根峠を越える。この道は三国街道になる。国道17号に合流すると、新潟との県境の三国峠へ。峠のトンネルの入口で折り返す。三国峠の「峠返し」の温泉めぐりがはじまった。

 第1湯目は法師温泉「長寿館」の湯。ここは入浴時間は10時30分から13時30分までと限られているので、それに合わせて大勢の入浴客がやってくる。法師温泉は人気の温泉。混浴の「法師の湯」に入る。無色透明の湯。大きな木の湯船は木でいくつかの湯船に分けられている。湯船の底には小石が敷きつめられている。中年カップルの女性は「朝早くからこんなにいいお湯に入れて幸せ!」といっている。

 第2湯目は猿ヶ京温泉「三河屋」の湯。湯から上がると、隣り合った手打ちうどん&そば店で「三国おろしそば」を食べた。おろしの辛みがピリリとしている。それに青菜や山菜、きのこが入っている。

 第3湯目は川古温泉「浜屋旅館」の湯。男女別の内風呂のほかに、混浴の内風呂と露天風呂がある。混浴の内風呂は温めの湯だが、この湯は腰痛によく効くとのことで、若い女性たちも入っていた。露天風呂もよかった。湯につかりながら紅葉を見ることができた。飲泉所と飲水所が並んでいるが、飲水所の水は川古温泉の湧水だという。川古温泉の近くには広河原温泉「峰旅館」があるが、入浴料が2000円なのでパスした。国道17号沿いの赤岩温泉「誠法館」は入浴のみは不可だった。

 第4湯目は湯宿温泉の共同浴場の湯。「善意の箱」に100円を入れる。熱めの湯。石の湯船で石の感触がすごくいい。これら法師温泉、猿ヶ京温泉、川古温泉、湯宿温泉の4湯は三国温泉郷といわれている。

 第5湯目の奥平温泉は国道17号から県道53号を行ったところにある。ここでは日帰り湯「遊神館」の湯に入った。大浴場と露天風呂の湯につかる。露天風呂では40代ぐらいの2人の話をそれとはなしに聞いている。2人は会社を無断欠勤してやってきたようだ。

「明日、会社に行ったら、クビになっているかもしれないな」
「そうだな。でも、こんなにいい湯に入ったんだから、もうクビになってもいいよ」
「ほんとうに今日は有意義な一日だった」
「そうだよ。こうしてときどきは温泉にでもつからなくってはな。俺たち、ボロボロになってしまうぞ」

 そんな2人の話を聞いていると、思わず「お疲れさま」と声をかけたくなってくる。

 温泉というのは腰痛や神経痛、関節炎、打ち身、胃腸など、「体の病」に効くだけでない。もっとも大事な効能というのは疲れきり、するへった神経をいやしてくれることだとぼくは思っている。温泉は「心の病」をも治してくれる。

 この奥平温泉までが三国峠の「峠返し」での温泉めぐりになる。

 国道17号の旧道でJR上越線の後閑駅へ。ここで今夜の宿探し。水上温泉に泊まることにし、駅前の公衆電話の電話帳を見る。温泉宿の中ほどにのっていた「山楽荘」に電話すると、宿泊OK。なんと一発目の電話で宿が決まった。宿の主人は「遅くなってもかまいませんよ。9時ぐらいまでに来てくれれば大丈夫ですよ」と、ありがたいことをいってくれる。こうして宿が決まると、このあとはすごく余裕をもってまわれる。

 第6湯目は月夜野温泉みなかみ町営温泉センター「三峰の湯」。内風呂は熱めの湯、露天風呂は温めの湯。ここはみつけるのに手間取り、30分近くもウロウロしてしまった。湯はすごくいいのだが、探すのが大変なので入浴客の大半は地元のみなさん。湯につかりながらみなさんの話を聞いていた。地元の人以外では、グループでツーリングしているライダーのみなさんが来ていた。

 第7湯目は上牧温泉「風和の湯」。内風呂は石の湯船。洗い場もすべて石。かわいらしい露天風呂のかまちの部分は黒御影石。つづいて諏訪温泉に行ったのだが、残念ながら本日の営業は終了。

 第8湯目は谷川温泉「湯テルメ谷川」の湯。大浴場と露天風呂。露天風呂の湯につかりながらライトアップされた紅葉を見る。

 水上温泉に到着すると和風レストランの「岳乃井」で夕食。ちょっと豪華に1900円の「麦とろ御膳」を食べ、「山楽荘」に到着。さっそく第9湯目の宿湯に入る。ドボドボ、ドボドボッと音をたてて湯が流れ込む湯船にどっぷりと身を沈めるのだった。

本日のデータ 料金等は当時のものです
朝湯 大塚温泉「金井旅館」
朝食 大塚温泉「金井旅館」 ご飯、納豆、煮豆、ソーセージ、漬物、梅干、味噌汁
8時45分 大塚温泉「金井旅館」を出発
赤根峠(峠越え)
三国峠(峠返し)
76湯目 法師温泉「長寿館」(800円)
77湯目 猿ヶ京温泉「三河屋」(500円)
昼食 猿ヶ京温泉「三河屋」 「三国おろしそば」(840円)
78湯目 川古温泉「浜屋旅館」(1000円)
広河原温泉「峰旅館」(入浴料が2000円なのでパス)
赤岩温泉「誠法館」(入浴のみは不可)
79湯目 湯宿温泉「湯宿温泉共同浴場」(100円)
80湯目 奥平温泉「遊神館」(550円)
81湯目 月夜野温泉「三峰の湯」(350円)
82湯目 上牧温泉「風和の湯」(550円)
諏訪温泉(営業時間終了後で入れず)
83湯目 谷川温泉「湯テルメ谷川」(550円)
夕食 水上温泉の食事処「岳乃井」 「麦とろ御膳」(1900円)
19時 水上温泉「山楽荘」(1泊朝食8000円)に到着
84湯目 水上温泉「山楽荘」
本日の走行距離数 145キロ
本日の温泉入浴数 9湯

大塚温泉「金井旅館」の朝食大塚温泉「金井旅館」を出発三国峠のトンネル入口

▲大塚温泉「金井旅館」の朝食 ▲大塚温泉「金井旅館」を出発 ▲三国峠のトンネル入口

法師温泉「長寿館」法師温泉「長寿館」近くの紅葉猿ヶ京温泉「三河屋」

▲法師温泉「長寿館」 ▲法師温泉「長寿館」近くの紅葉 ▲猿ヶ京温泉「三河屋」

猿ヶ京温泉「三河屋」の湯猿ヶ京温泉「三河屋」の「三国おろしそば」川古温泉「浜屋旅館」の露天風呂

▲猿ヶ京温泉「三河屋」の湯 ▲猿ヶ京温泉「三河屋」の「三国おろしそば」 ▲川古温泉「浜屋旅館」の露天風呂

川古温泉「浜屋旅館」の露天風呂から見る紅葉川古温泉「浜屋旅館」の飲泉所と飲水所広河原温泉「峰旅館」

▲川古温泉「浜屋旅館」の露天風呂から見る紅葉 ▲川古温泉「浜屋旅館」の飲泉所と飲水所 ▲広河原温泉「峰旅館」

広河原温泉「峰旅館」近くの紅葉赤岩温泉「誠法館」湯宿温泉の入口

▲広河原温泉「峰旅館」近くの紅葉 ▲赤岩温泉「誠法館」 ▲湯宿温泉の入口

湯宿温泉「湯宿温泉共同浴場」の湯奥平温泉「遊神館」月夜野温泉「三峰の湯」

▲湯宿温泉「湯宿温泉共同浴場」の湯 ▲奥平温泉「遊神館」 ▲月夜野温泉「三峰の湯」

上牧温泉「風和の湯」谷川温泉「湯テルメ谷川」水上温泉の食事処「岳乃井」の「麦とろ御膳」

▲上牧温泉「風和の湯」 ▲谷川温泉「湯テルメ谷川」 ▲水上温泉の食事処「岳乃井」の「麦とろ御膳」

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