第59回 傍示ヶ峠
投稿日:2011年3月1日
2010年 林道日本一周・西日本編
世界に冠たる峠の国、日本
津和野から山陰道の国道9号で日原(にちはら)へ。清流の高津川沿いの町で、この地方の中心地になっている。
日原のコンビニで「あさり飯弁当」を食べ、そこからは国道187号で六日市を通り、島根・山口県境の傍示ヶ峠へとスズキDR-Z400Sを走らせる。
中国山地の中央分水嶺の峠、標高375メートルの傍示ヶ峠に着くと、そこには戦前の昭和14年に建てられた石の道標があった。
「山口線日原駅へ 九里三十四町 島根縣廰へ 六十三里十三町」
と、彫り刻まれていた。
「傍示(ぼうじ)」というのは、杭などを立てて境界の目印にすることだが、信州の分杭峠と同じように、昔はこの峠にも境界の杭が立っていたのだろう。
なお、傍示ヶ峠の「峠」は、「たお」と読む。この地方では、峠を「たお」という場合が多い。
この傍示ヶ峠がいいのは「峠公園」といってもいいような、駐車場つきの小公園があることだ。そこには、峠周辺の案内板も立っている。これで、峠の歴史でも書いてあれば、もういうことはないのだが。
日本は世界でも冠たる「峠の国」なのだから、みんながもっと峠に目を向けたらいいと、ぼくはいつも思っている。そのひとつの方法として、傍示ヶ峠のような「峠公園」が、あちこちの峠にできればいい。
傍示ヶ峠では「峠返し」で、日原へと戻る。
湯の中談義で、旅の話に花が咲く
その途中では柿木温泉と木部谷温泉の2湯に入った。
柿木温泉の日帰り湯「はとの湯荘」(入浴料400円)の湯はきれいな黄金色をしている。湯の色のきれいさでいったら、柿木温泉は日本でも一、二を争うような温泉だ。石造りの湯船は温泉の成分が層を成してぶ厚く付着し、まるで鍾乳洞の鍾乳石のよう。表面は滑らかで、その肌ざわりがまたすごくいい。
ここでは地元の年配の人と「湯の中談義」をした。柿木温泉の湯に入ると、夜はぐっすり眠れるという。約束された快眠のために、毎日、この湯に入りに来るという。柿木温泉は別名「弘法の湯」。古くからの湯治場として知られている。
木部谷温泉では一軒宿の「松乃湯」(入浴料350円)に入る。柿木温泉に似た茶褐色の湯の色。湯の色では柿木温泉に負けるが、湯の味は柿木温泉よりもはるかに濃い。
ここの湯でも「湯の中談義」をした。
山口からやってきたという、60代半ばの人だ。
「この湯は体によく効くんでね。車を走らせて、けっこうひんぱんに来てるよ」
その人は定年退職記念に、車で北海道一周したという。
「北海道はいいよ。キミも一度、行ってみたらいい。なにしろ広さが違う。20キロも30キロも、直線のつづくところがあるんだ」
温泉の大好きな人で、北海道各地の温泉にも入りまくったという。
このように温泉につかりながら、見ず知らずの人と話すのはいいものだ。山間のひなびた温泉だと、話はよけいに弾む。
湯から上がると、裏手の山に登る。そこが木部谷温泉の源泉。しばらく待つと、勢いよく湯が噴き上がる。ここはほぼ10分間隔で湯が噴き上がる間歇泉だ。その湯を宿内に引いている。
日原に戻ると、まずは三子山林道を走る。三子山(799m)西側の山麓を行く林道で舗装路がつづく。
「あー、全線舗装なのか…」
と諦めかけたころ、ダートに突入。だが、0・5キロ地点で行止まり。残念無念。そこから日原に戻った。
次に日原から県道312号を行く。標高260メートルの桐長峠を越え、門松峠の手前で県道312号を左折し、大峯破林道に入っていく。この林道は国道488号へと通り抜けできたが、またしても残念無念…で、全線が舗装化されていた。
国道488号に出ると、匹見川の渓谷美を見ながら上流へと走る。日が暮れたところで飛び込みで匹見峡温泉「やすらぎの湯」に行く。
するとありがたいことに宿泊もできるし、夕食も用意してくれるという。
さっそく食堂へ。生ビールをキューッと飲み干したところで、刺身、天ぷら、茶碗蒸し、肉鍋、煮物、豆腐、甘露煮、サラダといった夕食をいただいた。
そのあとゆっくりと大浴場の湯につかった。
こうしてひと晩泊まる宿でいただく食事、ゆったり気分で入る温泉はまた格別だ。