第69回 小入谷・上根来林道
投稿日:2011年3月18日
2010年 林道日本一周・西日本編
京の七口「大原口」から久々のロングダートへ
京都・四条大宮の「東横イン」を出発。時間はまだ5時前だ。
スズキDR-Z400Sに「行くぞ!」と声をかけて走り出す。四条烏丸の交差点からは国道367号を北へ。国道沿いの「吉野家」で朝食。いつもの「納豆定食」を食べる。賀茂川、高野川と渡ったところで、京福電鉄の出町柳駅前に寄り道をする。ここが「京の七口」のうちの「大原口」になる。
京都に出入りする街道の玄関口を「口(くち)」と呼び、「京に七口あり」とよくいわれるが、粟田口とか鞍馬口、丹波口のように、「口」は今でも地名として残っている。
そのほかの七口というと鳥羽口、伏見口、鷹ヶ峰口がある。
「大原口」は敦賀街道、別名トト街道の出入口。トトとは魚のことで、敦賀街道は京都に入ってくる魚道でもあった。京都人はサバをよく食べるが、それは日本海で獲れるサバ。その日本海産のサバにひと塩ふって塩サバにし、京都に運んだ。
大原口の出町は、賀茂川と高野川が合流し、鴨川になる地点。そこには昔から洛北の農家を相手にする商店が軒を並べていた。大きな市場もあった。
京福電鉄の出町柳駅前から国道367号に戻り、高野川沿いに上流へと走る。
京都盆地からあっというまに谷間に入っていく。国道の両側には山々が迫り、空は狭くなる。谷がポッカリと開けると八瀬だ。さらに高野川沿いに行くと大原の里。寂光院、三千院の脇を通り、京都・滋賀の府県境の途中峠を越える。
滋賀県に入ると花折峠(トンネル)を越え、国道367号→県道110号→県道781号で最奥の集落、小入谷へ。そこから滋賀・福井県境のおにゅう峠を越える小入谷・上根来林道に入っていく。峠をはさんで滋賀県側は小入谷林道、福井県側が上根来林道になる。
小入谷林道の路面は良く整備されていて走りやすい。登るにつれて雄大な山岳風景を一望する。近江・丹波・若狭3国の国境の山並みだ。5・7キロのダートを走り切るとおにゅう峠に到達。
おにゅう峠を越え、福井県側に入り、上根来林道を下っていく。上根来林道も幅広の良く整備された林道。その途中では旧道の「鯖街道」と交差する。この小道が若狭湾の小浜から京都へ鯖を運んだ街道の名残だ。
60kgの荷を背負い、72kmの道を30時間で駆ける
「小浜→京都」間の鯖街道は何本かのルートがあるが、そのうち福井県の小浜から滋賀県の朽木に通じる「鯖街道」(国道303号)を走ったときは、福井県側の宿場町、熊川宿の鯖街道の資料館を見学したことがある。そこにはサバを背負って運んだ「背持ちさん」の姿が復元され、展示されていた。印象に残る展示だ。
背持ちは厳しい仕事だったが、
「(背負子を背負う)負い縄1本あれば生活できる!」
といわれたほど稼ぎのいい仕事でもあったので、男も女もやったという。
男で16貫(約60キロ)、女で半分の8貫(約30キロ)のサバを背負い、小浜を朝の8時から9時頃に出発し、わずかな仮眠をとる程度で夜通し歩き、翌日の午前11時前には京都・大原口の出町の市場に到着したという。
「小浜?出町」間は18里(約72キロ)。それを重いサバを背負って30時間もかからずに歩き通したのだから、背持ちは強靱な体力と精神力の持ち主だった。おにゅう峠越えのルートは、そんな何本かある「鯖街道」の中でも最短のルートになっていた。
上根来林道を下り、上根来の集落の入口まで来ると舗装路になる。
小入谷・上根来林道のダートは12・1キロ。うれしいロングダートだ。
上根来から鵜の瀬に下る。
ここは「お水送り」の地。
毎年3月12日におこなわれる奈良二月堂の「お水取り」は春を告げる行事としてよく知られているが、その水はここ、鵜の瀬から送られる。
毎年3月2日の夜、鵜の瀬の遠敷(おにゅう)川の淵で、根来八幡の神官と神宮寺の僧が神仏混淆で「お水送り」の行事をおこなっている。
かつての若狭は日本の先進地帯だった。大陸の進んだ文明・文化はこの地に上陸した。若狭の「お水送り」はその名残なのである。
遠敷川沿いに下り、若狭彦神社、若狭姫神社に参拝。この両社はともに若狭の一の宮で、若狭彦神社が上社、若狭姫神社が下社になっている。遠敷川沿いの「遠敷の里」には国分寺跡があり、国宝の明通寺もある。かつてはこの一帯が若狭国の中心になっていた。
国道27号に出ると国道162号経由でJR小浜線の小浜駅へ。京都・四条大宮から85キロだった。
小浜駅前から小浜漁港に行き、漁港の岸壁でDR-Z400Sを停める。若狭湾の青い海を見ながら、かつての鯖街道を行き来した「背持ちさん」を思った。
サバなどの青魚は傷みやすい。
浜でひと塩したサバを背負って、背持ちさんたちは京都・出町の市場を目指し、いくつもの峠を越えて歩きつづけた。そんな彼ら、彼女らの姿が、今の時代の高速道路を疾走する鮮魚運搬車と重なり合って、目に浮かんでくるのだった。
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