カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

第49回 椎葉内大臣林道

投稿日:2011年2月16日

2010年 林道日本一周・西日本編

九州最長の林道を目の前にして……

 西米良村の村所を出発し、国道265号を北上。椎葉村に入り、標高1050メートルの飯干峠に到達。スズキDR-Z400Sを停め、しばし峠の風景を眺めた。山また山、幾重にもなって山々が重なり合っている。
 椎葉は山深い。
 飯干峠を下ったところで三方山林道に入っていく。だが舗装路がつづき、なかなかダートにならない。
「いやー、ヤバイぞ」
 といやな予感がしたが、国道から6・2キロ地点でやっとダートに突入。ほっとした。三方山林道は路面状態もよく走りやすい。しかし何度となく鹿が飛び出してくるので要注意。とくにコーナーで鹿に激突したら大事だ。
 舗装化の進んでいる三方山林道だが、7・6キロのダートを走りきり、上椎葉ダムの人造湖、日向椎葉湖にかかる上福良橋の袂に出た。
 そこからいよいよ九州最長林道の椎葉内大臣林道に向かっていく。
 今回の「林道日本一周・九州編」のクライマックスだ。
 耳川上流の流れに沿って走る。そして椎葉内大臣林道宮崎県側の椎葉林道に入っていく。しばらくは舗装路がつづく。
 上福良橋から8・9キロ地点で、耳川の源流にかかる堺谷橋を渡る。
「さー、これからだ!」
 と意気込んでDRのアクセルを開いたその先で、何と通行止め…。
 これにはガックリきた。DRを停めると、しばらくは通行止め地点に座り込んでしまった。
 そのゲートは楽にすり抜けできそうなゲートだったが、今回の「林道日本一周」ではゲートのある通行止めは一切、すり抜けしないと決めていたので、もう戻るしかない。
 椎葉からは椎葉内大臣林道の椎矢峠を越えて熊本県に入り、熊本県側の砥用からは国道445号で二本杉峠を越え、五家荘から舗装林道の五家荘林道で椎葉越を越えて椎葉に戻ってくるつもりにしていた。
 残念無念…。

 ということで、ここでは1999年の「林道日本一周」で走ったときの椎葉内大臣林道を紹介しよう。

『日本一周バイク旅4万キロ・上巻』昭文社・2000年刊より

 早朝の熊本駅前に到着すると、九州最長ダートの内大臣椎葉林道を一番の目的にした「熊本→熊本」に出発。この周遊コースでは椎葉、米良、五家荘の“九州三大秘境”をまわろうと思う。
 国道445号で熊本市街を抜け出ると、一面の麦畑が広がっている。朝日を浴びた麦の穂はキラキラ揺れて光っている。そんな“麦秋”の風景を見ながら朝食のパン&チーズを食べた。
 熊本平野から山中に入ったところでは、国道のすぐわきにある“肥後三大石橋”のひとつ、八勢川にかかる下鶴橋を見る。石橋には蔦がからまっている。
 熊本から50キロほどで矢部に到着。ここでは“肥後三大石橋”の2つ目、通潤橋を見る。“肥後三大石橋”の中では、一番有名な橋だ。
 矢部からは国道218号で砥用へ。その途中で、“肥後三大石橋”の3つ目、国道のすぐわきにある霊台橋を見る。
 これで“肥後三大石橋”のすべてを見た。
 これらの石橋は肥後の石工がつくったもの。八代に近い東陽村出身の石工たちだ。彼らの技術はきわめて高いもので、鹿児島市の中心部を流れる甲突川にかかる石橋群や皇居の二重橋も肥後の石工によって江戸時代後期につくられたものである。
 砥用から内大臣橋に向かう。山中を縫って走る狭い曲がりくねった道。阿蘇から流れ出る緑川の谷間をまたぐ内大臣橋の上で、スズキDJEBEL250GPSバージョンを停める。恐々と下をのぞき込む。あまりの谷の深さに目がくらんでしまう。
 内大臣橋から九州最長ダートの内大臣椎葉林道に入っていく。抜けるような青空。なんとも気持ちのいいダートラン。内大臣川に沿って走る。小刻みなコーナーが連続する。
 内大臣川の流れを離れると、熊本・宮崎県境の椎矢峠に向かって曲がりくねった峠道を登っていく。このあたりは九州山地の中でも最も山並みが高く険しい一帯で、林道のすぐ南には九州山地の最高峰、国見岳(1739m)がそびえたっている。
 峠に近づいたところで、大阪からやってきたカップルに出会った。
 ホンダのディグリーに乗る長野さんとヤマハのセローに乗る坂井さん。お2人は連休を利用しての九州ツーリングで鹿児島から奄美大島に渡ったという。今日が旅の最終日で、内大臣椎葉林道を走り終えると、大分からフェリーで神戸に渡り、大阪に帰るという。
 熊本・宮崎県境の椎矢峠に到着。九州の最高所峠で標高1460メートル。
 峠上でDJEBELを停め、思いきり深呼吸をする。峠周辺のみずみずしい緑は色鮮やか。新緑の山の空気がうまい。耳を澄ますといろいろな鳥のさえずりが聞こえてくる。熊本県側に目をやると、雲仙・普賢岳がはっきりと見えた。
 椎矢峠を越え、宮崎県側に入ると、路面の状態がよくなる。登ってくる何台かのオフロードバイクとすれ違う。37・7キロのロングダートを走り切り、耳川の源流にかかる堺谷橋を渡ったところで小休止。さすがに九州最長ダートの内大臣椎葉林道だけのことはあり、走りごたえがあった。いやー、十分にあった。
 さらにもう1本、ダート15・3キロの松木内ノ八重林道を走り、椎葉村の中心、上椎葉に出た。
 ここでは平家の落人伝説が伝わる「鶴富屋敷」と「椎葉民俗芸能博物館」を見学。博物館で見た焼畑のビデオが興味深かった。そのあと、博物館の前にある食堂「平家の里」で昼食。このあたりはイノシシ猟が盛んで、いかにも椎葉らしいイノシシ丼とイノシシの焼肉を食べた。野性の味が舌に残る。店内に流れる椎葉の民謡「稗つき節」は心にしみた。“九州三大秘境”第1番目の椎葉から、第2番目の米良に向かおうとDJEBELのエンジンをかけたとき、思わずぼくの目は点になる。なんとクラッチワイヤーのエンジン側の取り付け部が切れる寸前なのだ。
「ヤバイ‥‥」
 ここが切れたら、もうにっちもさっちもいかなくなってしまう…。
 ということで米良はとりやめにして、ここから熊本に戻ることにした。
 いったんローギアにつないだら、あとはクラッチを一切使わずに、タイミングを合わせてダイレクトでギアチェンジして走ることにする。
 椎葉からは五家荘林道で椎葉越を越えて熊本県に入る。
 この椎葉越はさきほどの椎矢峠同様、九州の中央分水嶺の峠。何年か前までは全線がダートだったが、今では全線舗装。
 椎葉越を下ると“九州三大秘境”のひとつの五家荘。険しい山並みの中に集落が点在している。
 国道445号に出ると、北へ。二本杉峠を越えて砥用の町に出る。
 そこから国道218号→443号→445号経由で熊本へ。
 熊本の市街地に入り、信号で停まるたびにヒヤヒヤした。発進するときはどうしてもクラッチを使わざるをえないからだ。
 あともうすこしで熊本駅というところで、
「プッツン!」
 とクラッチワイヤーが切れてしまった。
 こうなったら、もうどうしようもない。汗をタラタラ流しながらDJEBELを押していく。こうして16時30分、熊本駅前に到着。264キロの「熊本→熊本」だ。
 最後は大変な思いをしたが、九州最長ダートの内大臣椎葉林道を走れたので、もう大満足のカソリだった。
フォトアルバム

九州山地を貫く国道265号をいく
国道265号の飯干峠


飯干峠から眺める山岳風景
三方山林道のダートに突入!


三方山林道からの眺め
三方山林道の展望スポット


日向椎葉湖に下っていく
椎葉内大臣林道宮崎県側の椎葉林道に入る


耳川源流にかかる堺谷橋
耳川源流の流れ




残念無念…、椎葉内大臣林道は通行止め

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