カソリング

生涯旅人、賀曽利隆の旅日記 60代編

温泉めぐり日本一周[42日目]

投稿日:2017年8月20日

雪道に疲れ10分寝が30分に

甲信編 18日目(2006年12月18日)

 不動湯温泉「さぎり荘」では、夜が明けるとすぐに外を見た。雪がぼそぼそ降っている。だが、予想したよりも積雪量は少ない。犀川の対岸を国道19号が通っているが、車は普通のスピードで走っている。

「これならば行けるぞ!」と喜んだ。

 原稿の送信を終え、7時、朝湯。泊まり客はぼく一人なので、「貸切湯」状態で大浴場の湯につかった。朝湯のあとの朝食も食堂で一人で食べる。自分一人のために朝食をつくってもらい、何か申し訳なくなる。それでも泊めてくれた「さぎり荘」に感謝。こういうときは「満室です」といって普通は断られるものだが。

 出発は8時30分。雪は少し小降りになっている。犀川を渡って国道19号に入り、緊張した面持ちでスズキST250を走らせる。コーナーではたとえ転倒しても対向車線に飛び出さないように極力、左側を走った。水分を多く含んだ雪がヘルメットのシールドにべったりとこびりつくので、グローブではらいのけながら走る。

 それでも視界不良で前方が見えなくなり、シールドを上げて裸眼で走る。すると雪は容赦なく目につき刺さってくる。その痛さといったらない。

「あー、目がつぶれる」
 と、本気で心配するほど。

 高速の後続車が接近すると、ウインカーを出して左側に寄り、その車を先に行かせた。

 ほっとできるのは速度の遅いトラックの後方についたときで、そんなときはしばらくそのトラックの後ろにぴったりついて走った。長野までの30キロの長かったことといったらない。

 長野からは国道18号を南下し、千曲川沿いの温泉をめぐりを開始する。ありがたいことに雪はやんだ。

 第1湯目は稲荷山温泉。「杏泉閣」内の公衆温泉浴場「湯之崎の湯」の内風呂と露天風呂に入る。雪にさんざん痛めつけられたあとの温泉ほどありがたいものはない。湯につかると、凍傷寸前の手の指に血の気が戻り、ジンジン痛む。我慢の限界を越えるような痛みで、「ギャー」と思わず声が出るほど。温泉効果で体は瞬間的にあたたまるが、手の指だけはどうしようもない…。いつまでもその痛みが残る。それがまた雪と闘ってきた証のようなものだ。

 第2湯目は森温泉「あんずの湯」。内風呂のみで、冬期間は露天風呂を閉鎖している。ここの源泉は35度と湯温が低いので、原油高の折、ボンボンと加熱するわけにはいかないのだろう。

 第3湯目は新戸倉温泉。最初に行った「戸倉観世温泉」は「本日、定休日」。つづいて行った「戸倉国民温泉」には入れた。ここは浴槽のみならず、カラン、シャワーにいたるまですべて温泉。源泉掛け流しの温泉なのだ。おまけに飲泉可。そんな「戸倉国民温泉」の入浴料は280円!

 戸倉駅の駅前食堂で昼食。「焼き魚定食」を食べた。

 さー、午後の温泉めぐりの開始だ。

 第4湯目は戸倉温泉「滝の湯」。ここの入浴料は1100円と上限の1000円を超えるが特例ということにした。5階の展望風呂に入る。湯上りに「10分寝」をしたが、10分では起きられず、「30分寝」になった。冬の寒さにやられ、相当、体が疲れているようだ。

 第5湯目は上山田温泉「瑞祥」の湯。ここは日帰り湯で、大岩を配した大浴場には複数の湯船がある。露天風呂もある。

 こうして戸倉上山田温泉郷の3湯に入り、坂城を通り、上田へ。

 上田を拠点にしての温泉めぐりを開始する。

 まずは国道143号で青木村へ。第6湯目の田沢温泉の共同浴場「有乳湯」に入る。肌に薄い膜が張るようなツルツル湯。温めの湯なので長湯できる。湯船の中では地元のみなさんと「湯の中談義」。「この寒さでバイクは大変だ」、「気をつけて行きなよ」などと口々にいわれた。

 第7湯目の沓掛温泉でも共同浴場の「小倉の湯」に入った。熱めの湯、温めの湯の2つの湯船とも混み合っていた。ここはまるで村の社交場。湯につかりながらみなさんの世間話を聞いている。村の様々な情報が筒抜けだ。

 青木村の2湯のあとは国道143号を上田方向に下り、左折して室賀峠越えの県道160号に入っていく。峠下にある室賀温泉の日帰り湯「ささらの湯」が第8湯目。規模の大きな温泉施設。ここは湯量が豊富で、硫黄泉の源泉は湯温50度の高温湯。大浴場は大混雑で息苦しくなるほど。露天風呂に逃げるようにして入ったが、ここにもかなりの入浴客。「ささらの湯」は大人気の日帰り温泉だった。

 室賀温泉から室賀峠を登っていく。峠に近づくにつれて山肌は雪で真っ白になる。だが、ありがたいことに、路面にはほとんど雪がなかった。気温はさらに下がる。氷点下3、4度ぐらいか。峠に到達すると、ST250を停め、まばゆいばかりの上田の夜景を見下ろした。

 峠下にある坂城温泉の日帰り湯「びんぐし 湯さん館」が第9湯目。ここも大規模な日帰り温泉施設。大露天風呂の湯につかりながら黒々とした千曲川の流れを見下ろし、その向こうの坂城の町明かりを眺めた。国道18号が一本の光の帯となって延びている。

 坂城からは国道18号で上田へ。到着は19時40分。「間に合った!」。上田駅近くの上田温泉「ホテル祥園」に泊まったのだが、8時までに到着すれば、「夕食も食べられますよ」といわれていたからだ。速攻で内風呂の薄茶色の湯につかり、ホテル内の和風レストランに行く。久ぶりに食べる宿での夕食。湯上りのビールを飲み干したところで、刺身や焼き魚、熱々の茶碗蒸し、煮物、酢の物といった夕食を食べた。最後に出たそばはとびきりのうまさ。「やっぱり信州はそばだよな!」と、ここでも実感するのだった。

本日のデータ 料金等は当時のものです
朝湯 不動温泉「さぎり荘」
朝食 不動温泉「さぎり荘」鍋、納豆、塩ジャケ、煮物、サラダ、のり、ご飯、味噌汁
8時15分 不動温泉「さぎり荘」を出発
357湯目 稲荷山温泉「湯崎ノ湯」(300円)
358湯目 森温泉「あんずの湯」(400円)
359湯目 新戸倉温泉「戸倉国民温泉」(280円)
昼食 戸倉の駅前食堂 「焼き魚定食」
360湯目 戸倉温泉「滝の湯」(1100円)
361湯目 上山田温泉「瑞祥」(650円)
362湯目 田沢温泉「有乳湯」(200円)
363湯目 沓掛温泉「小倉湯」(150円)
364湯目 室賀温泉「ささらの湯」(400円)
室賀峠(峠越え)
365湯目 坂城温泉「びんぐし 湯さん館」(500円)
19時40分 上田温泉「ホテル祥園」(1泊2食12000円)
366湯目 上田温泉「ホテル祥園」
夕食 上田温泉「ホテル祥園」 刺身、焼き魚、茶碗蒸し、煮物、酢の物、漬物、ご飯、味噌汁
本日の走行距離数 141キロ
本日の温泉入浴数 10湯

不動温泉「さぎり荘」の朝湯に入る「さぎり荘」の雪景色「さぎり荘」の朝食

不動温泉「さぎり荘」の朝湯に入る 「さぎり荘」の雪景色 「さぎり荘」の朝食

「さぎり荘」を出発国道19号を行く国道19号から見る雪景色

「さぎり荘」を出発 国道19号を行く 国道19号から見る雪景色

稲荷山温泉「湯崎ノ湯」森温泉「あんずの湯」「あんずの湯」の浴室

稲荷山温泉「湯崎ノ湯」 森温泉「あんずの湯」 「あんずの湯」の浴室

新戸倉温泉に入っていく新戸倉温泉「国民温泉」戸倉の駅前食堂の「焼き魚定食」

新戸倉温泉に入っていく 新戸倉温泉「国民温泉」 戸倉の駅前食堂の「焼き魚定食」

戸倉温泉に入っていく戸倉温泉「滝の湯」に入る上山田温泉から見る千曲川の流れ

戸倉温泉に入っていく 戸倉温泉「滝の湯」に入る 上山田温泉から見る千曲川の流れ

田沢温泉の温泉街田沢温泉「有乳湯」沓掛温泉「小倉湯」

田沢温泉の温泉街 田沢温泉「有乳湯」 沓掛温泉「小倉湯」

室賀温泉「ささらの湯」坂城温泉「びんぐし 湯さん館」上田温泉「ホテル祥園」の湯

室賀温泉「ささらの湯」 坂城温泉「びんぐし 湯さん館」 上田温泉「ホテル祥園」の湯

「ホテル祥園」の夕食

「ホテル祥園」の夕食    

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