ジクサー150分割日本一周[163]
投稿日:2021年4月9日
東北一周編 49(2017年7月24日)
絶望するな。では、失敬
小泊では小泊漁港と下前漁港を見てまわったあと、小説「津軽」の像記念館を見学。その像というのは、太宰治と子守役(アダコ)越野タケの再会の像。タケは3才から9才までの6年8ヵ月、太宰治の子守をした。
その像の前に建つ「太宰治文学碑」には、『津軽』の一節が記されている。
たけはそれきり何も言わず、きちんと正坐してそのモンペの丸い腰にちゃんと両手を置き、子供たちの走るのを見てゐる。けれども、私には何の不満もない。まるで、もう、安心してしまってゐる。足を投げ出して、ぼんやり運動會を見て、胸中に一つも思う事が無かった。もう、何がどうなってもいいんだ、といふやうな全く無憂無風の情態である。平和とは、こんな気持ちのことを言うのであろうか。
(中略)
しばらく経って、たけは、まっすぐ運動會を見ながら肩に波を打たせて深い長い溜息をもらした。たけも平氣ではないのだな、と私にはその時、はじめてわかった。でも、やはり黙ってゐた。
(中略)
しばらく経って、たけは、まっすぐ運動會を見ながら肩に波を打たせて深い長い溜息をもらした。たけも平氣ではないのだな、と私にはその時、はじめてわかった。でも、やはり黙ってゐた。
『津軽』は太宰治の名作だが、その中でも一番感動的なシーンは小泊での、越野タケとの30年振りの再会だ。このシーンの後の、次の一文でもって、『津軽』は終わる。
さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行こう。絶望するな。では、失敬。
太宰治の世界に一時、浸ったところで小泊を出発し、日本海の海岸線に沿って南へとジクサー150を走らせるのだった。
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