サケの文化
投稿日:2009年11月2日
北海道はやっぱりサケだ!
函館を出発点にした「北海道一周」では、各地でサケを食べた。宿の朝食にはサケは欠かせないもの。サケの焼き魚は薄塩で、そのあたりが本州、とくに東日本とは違う。無塩のサケの焼き魚もあった。サケの煮魚にはちょっとびっくり。夕食にはサケのチャンチャ焼きがついたり、サケの切り身がドーンと入った石狩鍋がついた夕食もあった。サケの天丼にはこれまたビックリ。「北海道一周」の最後の食事はサケの親子丼。函館朝市の食堂で「トロサーモン&イクラ」の丼を食べ、サケを存分に賞味した。それを食べながらカソリ、「北海道はやっぱりサケだ!」と叫ぶのだった。
カムイ・チェプ「神の魚」
今回の「北海道一周」で食べたサケ料理の中でも、サケの本場、標津の「サーモンパーク」内にあるレストラン「サーモン亭」で食べた「標津鮭定食」(1800円)は忘れられない。サケの塩焼き、サケの刺身(ルイベ)、サケの氷頭なます、サケの三平汁、イクラ丼のいくらご飯と、サケ三昧の食事。サケだけでこれだけの食事ができるのかと感動した。
北海道の食文化をひとことで言い切ってしまうと“鮭食文化”ということになる。それだけに北海道のサケ料理の種類は多彩で、きわめて発達している。
石狩鍋
サケはアイヌ語で“カムイ・チェプ(神の魚)”。北海道でのサケの重要性を見事に表した言葉ではないか。さて数ある北海道のサケ料理の中でも王様級なのが長万部温泉「丸金旅館」の夕食にも出た石狩鍋だ。石狩川河口の石狩からおこったサケ料理ということだが、ぶつ切りにしたサケと豆腐、コンニャク、野菜類などを入れた味噌味の鍋料理。体が芯から暖まる。
三平汁
ところで青森から函館に夜中のフェリーで渡り、夜明けの函館の朝市を歩き、市場内の食堂で食事するのがぼくの北海道ツーリングの定番のようなもの。そのとき一番、食べたくなるのが三平汁。湯気のたつ三平汁をフーフーいってすすっていると、「津軽海峡を渡って北海道にやって来た!」という気分になるものだ。三平汁はサケやニシン、タラなどを入れた汁だが、なんたってサケがうまい。冬、地吹雪に吹かれたときに食べた酒粕入りの三平汁には生き返るような思いだった。
ルイベ
北海道の先住民アイヌの食文化の伝統を色濃く受け継いだのがルイベ。ルイベというのは、凍らした食べ物を意味するアイヌ語で、タラやエゾジカのルイベもあるが、ツーリングの途中で我々が口にするルイベといえばサケになる。生のサケを三枚におろし、皮をとり、4、5ミリぐらいの厚さに切ったものを凍らせ、それをワサビ醤油につけて食べる。シャキシャキッとした歯ごたえと、トロッとした脂の乗った身のうまさがたまらない。寒さの厳しい北海道らしい食べ物だ。
イクラ丼
北海道ツーリングではきわめてなじみの深いイクラ丼だが、このイクラというのはアイヌ語ではなく、魚の卵を意味するロシア語なのだ。そのロシア語がサケやマスの卵の意味ですっかり定着したところに、北海道とロシアの距離の近さを感じさせる。イクラは生の筋子をばらして塩漬けにしたもの。イクラ丼というのは、それをあたたかな丼飯の上にのせただけの素朴な食べ方だが、北海道の食の素材のよさとあいまって、これがすこぶるうまいのだ。
めふん
北海道料理の中で一番の酒の肴といったら「めふん」といっていい。今回の「北海道一周」では残念ながら食べる機会がなかったが、雄のサケの背腸(臓物を取り出したあとで取る背骨に沿ってついている血わた)を原料にした塩辛で、高級品になると3年近くも寝かせるという。高級品のめふんには、舌の上でとろけるような熟成された味がある。めふんは生ビールにもワインにも日本酒にも‥‥と、何にでも合う。すごい酒の肴だ。ぼくが知る限り、このサケの“めふん”とアユの腹わたからつくる“うるか”は、日本の塩辛の両横綱といったところだ。
サケを間近に見る
サケの本場、標津ではサケの遡上が見られる標津川の河口に建つ「標津サーモンパーク」に行った。中心となるのは「標津サーモン科学館」。館内にある水族館では大水槽で泳ぐシロザケを見た。そのほか世界のサケ科魚類約30種も見られる。ここではサケとマスの関係の近さを思い知らされた。サケとマスはどう違うのか、よくわからなくなってくる。サケもマスもサケの仲間。簡単にいえばサケは海産でマスは淡水産ということか。
千歳ではやはりサケが遡上する千歳川の河畔にある道の駅「サーモンパーク千歳」に行った。ここには「千歳サケのふるさと館」があり、館内の大水槽で泳ぐサケの群れを見られる。千歳川にはサケの捕獲用のインディアン水車がある。実際に使われているものだけに迫力満点。これはアメリカの水車式漁法をヒントにたということで、千歳川独特のものになっている。
二風谷の「アイヌ文化資料館」ではサケがイロリにぶら下がっていた。
旭川・近文の「川村カ子ト・アイヌ資料館」には、サケ皮でつくられたアイヌの冬靴(チェブケリ)が展示されていた。それには思わず目が釘付けになる。北海道にとって、サケがいかに重要な魚であるかを証明しているようなものだった。